名取くん、気付いてないんですか?
帰りの挨拶をして、みんなが一斉にばらばらと帰り始める。
わたしも鞄を肩にかけていると、後ろからツンツンと葵ちゃんに服を引っ張られた。わたしは頷いて、先に歩き出した葵ちゃんの後ろについて行こうとして——
———ガッと、誰かに肩を掴まれてしまった。
「朝霧さん、今日は掃除当番だよ。さぼらないでね」
掃除の班が同じ、相澤くんが笑顔で迎えていたのだった。い、いやぁほんと怒ると怖いタイプだなぁ相澤くんは!
わたしも雰囲気に合わせて笑顔。しかしすごく引きつる。わ、忘れてたー! 忘れた上で、葵ちゃんに「待ってるよ!(キメ顔)」とか言っちゃってたー!
うぉああ、葵ちゃんの顔が死んだ! まじかよひとりで行かせる気かよって目で訴えられてる! ち、違うの葵ちゃん! いや何も違わないけど! 必死に言い訳したかっただけだけど!
相澤くんに、希望を抱いてみる。
「あ、あの非常に大事な用事かあるのですが……」
「そう言われても……俺にどうにかする権限はないね」
「ぐっ……あ、葵ちゃん……」
ダメだ。相澤くん真面目だから言い訳通用しなかった。
「はは……行って来るでござる」
乾いた笑いを残して、とぼとぼと歩いていく葵ちゃん。
わ、わたしが掃除を忘れてたばっかりに! 葵ちゃんからの信頼度が下がった気がする! 辛い! とても辛い!
「あ”い”ざ”わ”く”ん”~」
「なに……わ、ひどい顔」
「普通に貶すのはやめない!?」
わたしにだって一応悲しいって感情はあるんだけど!
はぁ、と肩を落としていると……またもや、後ろからぽん、と手を置かれる感覚。相澤くんは前でほうきを渡して来たから違うとして、そしたらこれは……。
「みっちゃん! 私が行ってくるよ~!」
眉をつり上げて笑う彼女。親指を立てて前に突き出してきた。
「り、リサちゃん……っ!」
「また後でね~! あっ、痛っ。待って~」
最後でなにやらドアに腕をぶつけて小走りするリサちゃん。頼もしくはあるけど、やっぱりとても心配だった。
それに……リサちゃんって何か知ってたっけ。わたし、何も言ってなかったよね。
そして相澤くんと残されたわたし。相澤くんは何か察したようにわたしを見ていたけど、何も言わない。
ただ、その代わりに。
「ちょっと、急いでやろうか」
「……! うん! ありがとう!」
少し気を利かせてくれたりした。
……うん、こういうところは、良い人なんだよなぁ。