名取くん、気付いてないんですか?
それは、和久津くんに告白した女子だった。
どうして彼女がいるのか、理解できずにフリーズしてしまう。彼女とは話をしたこともなければ、まともな面識さえないはずなのに。
だけど確実に彼女はわたしたちに向いている。途端誰かに助けを求める焦りが溢れ出していた。
「あの、ど、どうするの……っ?」
「これで窓を割ります!」
持っていた箒を振り上げる彼女。
「えっ、あ、危ないよ~!?」
リサちゃんが慌てて止めに入る。
こ、こんな大胆な行動をするイメージなんて、全然なかったんだけど。それに、中には葵ちゃんもいるし、破片が飛び散ったときを考えると……。
「そうです! だから中の人も、避けてください!」
「投げやりだよね!?」
そんな大きな声で宣言されても困る! 教室の中にも声が届いて、困惑しているのか物音がなくなってしまった。
これじゃあますます様子が分からない……!
彼女はどうして来たんだろう、どうしてこんなことするの。責めたくないけど、責めざるをえない。助けを求めたのが間違ってたの?
「………強引でごめんなさい。でも、きっと大丈夫」
ぼそりと、独り言のように言って、箒を握りなおす。その仕草がやっぱり、イメージと違った。
「もう割るから! せーのっ——」
彼女が箒を振り下ろそうとする瞬間、わたしは目を瞑った。
——意味が分からない。
何をしたいのか、何を予想しているのか。
でも、期待してしまう。だって、彼女を少しでも信じていたから。信じて、いたいから。
コツン。
そんな、拍子抜けする音が聞こえただけだった。
目を開けてみても、窓は、割れていない。
「な、何考えてんのあんた……っ!」
でも、廊下にはひとり顔面蒼白の女子生徒が増えていた。それが、目の前の教室から出てきた人だというのは見たとおりで。
開いたドアからはもうひとり、ひょっこりと葵ちゃんが現れる。
「葵ちゃん!」
自然とわたしは葵ちゃんに駆け寄って、そのまま抱きついていた。
心臓の音が頭にまで響く。うまく息ができない。……自分が思っていたよりパニックになっていたようで、涙が溢れた。
「……みお殿」
「あ、葵ちゃんっ、葵ちゃん……っ!」
「うん、拙者は大丈夫。安心してほしいでござる」
ポンポンと背中をさすられ、次第に冷静さを取り戻していく。
ふとリサちゃんを見ると、視線の先に二人の女子を捉えているのがわかった。
「ほんっと、なんなの? ウザいよ、土屋さん」
「……まさか優等生の佐々木さんがこんなことしてるなんて、びっくりです」
箒を持った掃除の彼女——土屋さんと、彼女を睨みつける、葵ちゃんを呼び出したであろう佐々木さん。
二人は異様な空気で見つめ合っていた。
そして、葵ちゃんを傷つけた佐々木さんのほう。
彼女は、休み時間にうちのクラスに来ていた、相澤くんを囲む三人の中のひとりだった。