名取くん、気付いてないんですか?
結局、相澤くんはチャイムが鳴っても授業が終わっても来なかった。しかも、リサちゃんまで。
二人が何か関係しているとは考えづらいけど、でも同時にっていうのは、なんだか引っかかる。リサちゃんにメールしても、全然返ってこないし……何か、あったのかなぁ。
気になるけど、返事がない場合わたしにはどうにもできない。たかが幼なじみのわたしにできることは、せいぜいリサちゃんの無事を祈ることくらいだ。
そろそろと寄ってきていた葵ちゃんも、心配そうにしている。
「あ、あの、みお殿……」
「……葵ちゃんは、自分の心配をしてね」
「う……わかったでござる……」
葵ちゃんのことに関してははっきりと心配する理由がわかっているんだから、まずはそっちを優先することにした。
土屋さんっていう、心強い仲間もできたことだし。もう少しだけ、様子を見なくちゃ。
※ ※ ※
「……これを見てくれ」
休み時間、こっそりと和久津くんに見せられたのは、和久津くんのであろう黒いスマホ。画面の中には親子の忍者と、アクロバティックに跳ぶ黒い忍者が載っていた。
突然見せられ、どんな反応をしていいかわからなくて和久津くんを覗く。真剣な表情で、わたしの反応を伺っている……。
えっと、どんな反応をしたら正解なのかな?
もう一度、画面を見る。やっぱり映っているのは、忍者、忍者、忍者。
「あの……なにこれ」
もう正直に苦笑することにした。
「忍者村のホームページだ」
「いや、それはわかるんだけど。えっと……行きたい、の?」
「そうだ。……葵とな」
あ……そういうことか。
和久津くんの一見無愛想な顔も、理解すれば緊張しているんだなと思えた。
いや、でもさ、これだけ見せられて理解させようとするのもどうかと思うんだよ。察しが悪いのも少しは認めるけどさ!
「喜んでくれると思うか?」
不安そうなのに、呑まれないように。わたしは、和久津くんに明るく振る舞う。きっと和久津くんの判断は間違っていなくて、彼自身も何をすればいいかはわかってるんだろう。
後は、わたしが少し頷くだけ。
「うん、いいんじゃないかな」
さり気なく葵ちゃんが忍者を続けていくのも肯定してる気がするし。
「そ、そうか……」
小さく微笑んだ和久津くんは、それはそれは絵になった。かっこいいのに、無邪気な子どものようにも見えて、なんだか微笑ましい。
嬉しさが目に見えるくらいにじみ出て、わたしまで頬が緩んでいく。
「じゃあ、それだけ報告したかっただけだから」
「がんばってね!」
「……おう」
スマホを直し、自分の席へ戻ろうと背を向ける和久津くん。この間までより、少し大きくて、まっすぐに見えるのはきっと錯覚なんかじゃない。
……素敵な思い出になるといいなぁ。
心の中で祈ると、なんだかわたしにも勇気が湧いてきたのだった。
※ ※ ※
昼休みに葵ちゃんとごはんを食べていると、メールが来ていたのに気づいた。
確認すると……リサちゃん。慌てて箸を置いて、スマホに全神経を集中させる。葵ちゃんにも呼びかけて、二人で画面をじっと見る。
ゆっくりと名前を押し……。
『駅の階段から落ちて骨折しちゃったよ~(×_×) たまたま近くを通った相澤くんが救急車を呼んでくれたし、無事だよ~!』
フリーズする。それから、葵ちゃんと顔を見合わせて、ぽかんとしただらしない顔に指を差し合った。
リサちゃんって人は、日頃からやりすぎなくらい脳天気だけど。それでも自分のドジを自覚して直そうとする頑張り屋で。でもやっぱりどこか抜けてて。
言いたいことは、ひとつ。
「それ全然無事じゃないよね!?」
「無事じゃないでござるよー!?」
ほぼ同時に言った言葉は教室中に響きわたった。
注目を浴びたことに謝りながらも、名取くんと和久津くんの方を見ると……同じように、スマホを見て顔を見合わせていた。相澤くんからも同じような内容が送られてきていると考えられる。
リサちゃん、きっと君は心配させまいと打ったのだろうけど、逆効果だ。心配要素が増えただけだよ。