名取くん、気付いてないんですか?


 一時間目。席替えをすると、相澤くんとは無事に別れることに成功した。


 あわよくば名取くんの隣に行きたい……という私の願いは叶わず。隣にいるのは、和久津くんだ。


 きっと、前までなら睨まれまくって、相澤くんのとき以上に最悪な一ヶ月になっていた。でも、もうそんな心配をする必要のないくらい穏やかな雰囲気で、



「よろしくね、和久津くん」


「ん」



 と言い合っていた。


 なんだろうこの感じ。なんか、なんか。ちら、と和久津くんを見ると、なんと和久津くんもこっちを見ていた。


 なんだか気まずくて、ごまかすようにはにかむ。あ、あれだ、和久津くんって……なんか、イケメンオーラがすごいっていうか……。なんか隣に座るのが申し訳なくなってくる。うわ、冷や汗かいてきちゃった……。


 前に視線をもどして――それでも横からの威圧感は消えないけど――体育委員の二人が前に立って黒板に何か書いているのに気付いた。


 そうだった。今は今月の半ばにある球技大会の種目決めをするんだった。球技大会かぁ……私、別に球技は得意じゃないからなぁ……。


 ――――得意な種目は、マット運動。


 ……うん、なんか、微妙っていうか、それ中学までしかないし、高校にマット運動なかったし、意味ないんだけど。


 球技大会の選択種目は、バレーとバスケと、卓球の三つ。この中で比較的できるのは……卓球、かな? どれもどっこいどっこいって感じではあるけど。


 公平にするためにその部活をしてる人は別のにしなきゃいけないし、そんな難しい試合にはならないはず。


 葵ちゃんは迷いなくバスケを選択しそうだよね。体育の授業であったときの、あの無双ぶりはかなりの逸材だろうし。運動が苦手なリサちゃんは……ああ、絶望してる。髪の広がりと球技大会のコンボで頭を抱え続けている。


 隣で「んー」と声をもらして、黒板を凝視する和久津くんが目に入った。和久津くんは一通りまんべんなく運動できるっぽいけど、どれかやりたいのはあるのかな。



「和久津くんは、どれにするの?」



 思わず声をかける。和久津くんはもう一度「ん~」とうなって、頬杖をついた。



「別にどれでもいいけど……あ~、いや、卓球以外」


「え、なんで?」


「だって卓球って、あんま動けないし」


「ふーん? まぁでも、和久津くん身長高いし、卓球よりは他の二つの方がいいかもね」



 運動するときは、じっとするのは嫌なんだろうか。それなら、私が得意なマット運動なんて、なんの見せ場もない地味でちまちました体操だと思われるんだろうなぁ。


 結局、和久津くんはバスケに手を挙げた。予想通り、葵ちゃんもバスケ。リサちゃんも悩んだ末、卓球にするみたいで私と一緒だった。そして残りの二人、名取くんと相澤くんはバレー。


 名取くん……バレー、か。応援しなきゃ。なんで相澤くんまで付いてきたのかは知らないけど。正直相澤くんは、名取くんの活躍を根こそぎ食って行きそうだから嫌なんだけど。


 とにかく、球技大会、がんばろっと!

< 49 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop