名取くん、気付いてないんですか?


 ただ、拾い集めた後……。



『あ、ありがと、名取くん』


『……え。ああ、どういたしまして……っていうのも、なんか違う気もするかな』


『そ、そんなことないよ。名取くんのそういうさりげなく優しいとこ、もっと誇って良いと思う!』


『あー……いや、あの、普通に照れる……』



 そんな会話で、恥ずかしそうにへにゃりと笑ったあの顔は、やばかった。


 名取くんと話すときは決まって赤くなって熱くなるわたしの顔に加え、鼻血が出そうだった。あー、どうしよう。思い出し鼻血しそう。


 いつもはさらーっと避けてわたしを落ち込ませるくせに、わたしが意図しないときに限ってああいった笑顔を見せるから、反則だ。

 
 うー、好き。好きなんだ、名取くん。


 また顔が熱くなるのを感じて両手で覆う。あー、これ今相澤くんにガン見されてたな。相澤くんって、別に何か言うとかはないんだけど、こうやって見て楽しまれてるんだろうな。


 とか思ってたら、相澤くんから手紙が回ってきた。



『裕也、見てる』



 受け取って二つ折りにされた手紙を開く。手紙にはそう綺麗な字で書かれていた。意味が理解できなくて首を傾げると、相澤くんがくすりと王子様スマイルでわたしの斜め後ろを指さす。


 嫌な予感しかしなくて、半目でうすーく見てやろうと和久津くんの席へ半目を移し……。


 案の定、和久津くんに見られていた。いつもの睨みが効いている。


 あー、えーと、だから、怖いんですけど。わたし、何かしました? 心当たり、ないんだよなー。……なんて。いや、ほんとにないんだよ?


 葵ちゃんにも怖い顔はするけど、わたしの方がされてる気がする。


 ……うん。なんで? そろそろ教えてくれない?


 和久津裕也くんは、黒髪イケメンでクールなため人気がある。


 ただ優しくはない。他の人にどう接しているのかはしらないけど、わたしに優しくしたことはない。


 そういうところが、苦手だ。名取くんとお近づきになりたいわたしにとって、和久津くんは一番のライバルと言えるだろう。


 うーん、わからない。目は合わせたくないから、半目のまま和久津くんと睨み合いを始める。


 相澤くんはわたしの半目に笑って、先生に怒られていた。


 相澤くんは笑いすぎじゃないですか?


 相澤くんは和久津くんと対照的に明るい髪色の、笑顔が綺麗なイケメンである。もちろん人気だ。


 和久津くんと違いワックスで固めたツンツン頭じゃなくて、天然さらさらヘアー。とりあえず、何事にも和久津くんと反対だって覚えたら正解。


 わたしは二人の名前を覚えてないとき、名取くんの取り巻きって覚えてたよ。


 だっていつも名取くんと一緒にいるからね。廊下を歩くときも、名取くんを真ん中にして左右を陣取るし。


 正直名取くんに付け入る隙がないのって、この二人にも原因があるよね。

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