名取くん、気付いてないんですか?



「……そういえばさ、朝霧」


「おっ、ん? なに?」



 休み時間になって、次の授業の準備をしようと机から教科書を出そうとしていると、和久津くんが話しかけてきた。


 手を止めて和久津くんの方を見ると、妙に強張った表情で私の顔を凝視してくる。え? な、なに? 私、何か気に障ることでもしたっけ……!? いや、してないよ! してない、はず……。してない、よね?



「……」


「……え、えっと……。どうしたの?」



 一向に動きがない和久津くんに痺れを切らして、もう一度聞き返す。そっちから話しかけてきたのに、何も言わないのは反則だからね?


 ましてや、『あのさ』『何?』『やっぱりなんでもない』の流れなんてやられたら許さないからね!? 一番気になるやつだよ!



「やっぱりなんでもな……」


「はいダメー! それ一番やっちゃダメー!!」


「えっ!?」



 考えた途端にやってきたね!? 酷いよ!


 いや、和久津くんも「えっ!?」じゃなくてね? 自分が話しかけたことに責任を持つべきだと思うんだ。どんなにくだらないことだったとしても、言いたいことがあるから話しかけたわけでしょ?



「言ってくれるまで待ちます」


「……………うん」



 和久津くんも私の威圧に負けたのか、一度飲み込みかけた話題を吐き出してくれる。


 なにやら鞄をごそごそし出したと思えば、ひとつの袋を取り出した。



「あの、これ……忍者村のお土産」



 そしてほんの少し頬を赤くして、他の人にはあまり聞かれたくないのか小声で差し出してくる。


 お礼を言う時間さえ与えず、早くしまってほしいと言われて鞄に直した。それはさながら裏取引……もとい隠密行動。和久津くんの服が黒一色の忍者に見えた。


 一段落着いてからちゃんとお礼を言って、一応中身を確認するとまた小声で「……手裏剣の瓦煎餅」と返してくれる。その後は、もうやめてくれと手裏剣の話題を拒否されたのだった。


 しかし、聞きたいことはあるわけで。



「びっくりした……葵ちゃんからは何も聞いてなかったし。いつの間に行ってたの?」


「今週の……日曜日」


「えっ! そ、そうなんだ……」



 それって、私が名取くんとデートした日と一緒だ……。あっ、ダメダメ、思い出さない! 顔が赤くなってきちゃうから!


 ふと、和久津くんがまだ何か言い足そうにしているのに気付いた。そして、それを私ははっきりわかっている。



「……楽しかった?」


「うん」


「仲直り、できたんだよね?」


「……うん。葵も、嬉しそうに笑ってた」



 本当に嬉しそうに、ひとつひとつ噛みしめるように話す和久津くん。……なんだかこっちは、目の前が歪んできそうだ。



「……やっぱり俺、好きだ……」



 そっか……。


 ……ん? ん!? な、何を!? ていうか、誰を!?





「忍者が」





 ――――忍者かーーーい!!!!


 ちょっとー! 期待持たせるようなことしないでよね! 女の子は恋バナが大好きなんですからね! もー! 一瞬葵ちゃんのことかと思っちゃったよー!



「……ありがとな、朝霧」



 ……悔しいけど、そういって笑った和久津くんは、とてもかっこよかった。


 まぁ、幸せそうだし、いっか。



「ま、大和のことを許したわけじゃないけどな」


「えっ! 酷い! 私に感謝してるんじゃないのー!?」



 上げてから落とす作戦やめて!



「……それとこれとは、別なの」



 ……あ、あれ?


 なんだろう。和久津くんの、私の見る目がすごく優しいんですけど。ていうか、何で私もちょっとドキッとしちゃったのかな!?


 あれ? あれあれあれ? なんか、おかしい。いや……ちょっとこれは、変な空気かもしれない……!


 わ、私も! 名取くん意外に目移りとか! ありえないからね!?

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