名取くん、気付いてないんですか?
お昼休みになると、葵ちゃんがもじもじしながらやってきた。隣の和久津くんのこともちらちら見ながら、恥ずかしがるようにはにかむ。いつもの、八重歯がちらりと見えた。
そして手には和久津くんから渡されたものと同じ包装紙が巻かれた中くらいの大きさの箱。
和久津くんが一瞬ぎょっとした顔で葵ちゃんを見たけど、葵ちゃんは気付いてないようだ。残念だね、和久津くん。せっかく自分はこそこそ渡したのにね。恥ずかしいね。
「あ、あの、お饅頭を持ってきたから、理沙子殿と一緒に食べようでござる!」
若干裏返る声にわたしは何事もなかったかのように「うん」と返す。――だけど、葵ちゃんには「そこは何か言ってほしかったでござる……」とさらに恥ずかしがらせてしまった――
リサちゃんの元へ行くと、そこにはなぜか相澤くんまでいた。わたしはすかさず睨み込んで、二人の間に割り込む。
この際、感じの悪さは気にしてられない。もし相澤くんがリサちゃんをたらし込もうとしてるんなら、絶対に許さないし、絶対に阻止するんだから!
「あ、みっちゃん~。あのね、今、相澤くんにお昼誘われたんだけど――」
「みっちゃんは断固として許しません!」
「あ、うん。私も、断ろうと思ってたんだ~」
「ん? えっ? あ、ソウナノ?」
よっしゃあああああああ!! リサちゃんがチョロい女じゃなくてよかったああああああああ!
あからさまにガッツポーズをとると、相澤くんが訝しげな目で見てくる。そんな目で見ても、知らなーい! 断ったのはわたしじゃないもーん!
嫌な女なのは承知のことで、わたしは相澤くんからリサちゃんを守ることに成功した。そんな易々とリサちゃんをあげるものですか!
最後に困った笑顔を見せて戻っていく敗者の後ろ姿を眺めながら、わたしはなぜか罪悪感を覚えてしまった。
いやいや、いくら相澤くんが悲しそうな顔をしたからって、ちょっとそれはダメだよわたし。チョロいのはわたしだよ。
そんな一部始終を見ていた葵ちゃんはぼんやりと口を開ける。
「いつの間に、相澤殿と仲良くなってたんでござるか?」
あっ……やっぱり、端からだと仲良く見えるんだ……? そう、だよね。急にそんな、今まで交流のなかった男女が一緒にいたら、そう思っちゃうよね。
ましてや高校生なんて、男女が一緒にいるだけで『付き合ってるの?』って聞いてくるよね。……あれ、わたし、名取くんといるときに言われたことないな。おかしいぞ。
っていうかリサちゃんも、そんな気がないならきっぱり「別に仲良くないよ」って言えばいいのに、「そうだね~」なんて意味深なこと言っちゃって!
えっ、待って、嘘でしょ? 脈ありなの……? えっ、嘘、えっ嘘えっ、嘘だよね!?
「まぁでも、みっちゃんが心配してるようなことでは、ないと思うけどね~」
「えっ?」
リサちゃんと、目が合った。なんていうか、微笑んだその姿はとても可愛いんだけど、それだけじゃないっていうか。上手く言えないんだけど~、意味深な瞳っていうか?
「私、みっちゃんを心配させるようなことはしないから。安心してね」
「あ、う、うん……?」
ど、どうしたんだろう? なんか、リサちゃんが怖い。
「えっと……とりあえず、お饅頭、食べるでござる……?」
そうして葵ちゃんが差し出してくれたまきびし型のお饅頭は、とても美味しかったです。