名取くん、気付いてないんですか?



「理沙子ちゃん、次の授業、一緒に――」


「あっ、リサちゃん! 次移動教室だよ! 行こっかー!」


「あ、うん~。行こうみっちゃん」




「理沙子ちゃん、お昼一緒に――」


「リサちゃんリサちゃん! 今日お母さんがほうれん草入りの玉子焼作ってくれたんだけど、食べてみて?」


「玉子焼? うん、食べる~」




「理沙子ちゃん、今日一緒に帰……」


「らないよ~。あっ、みっちゃん、私今日車で帰るね~」


「わかった!」



 三戦三敗。しかも最後はリサちゃん本人断られるという惨敗ぶりを発揮する相澤くんに、さすがにわたしも同情せざるを得ない。まぁ、現実は相澤くんに勝ち誇った笑みを振りまいたりしてるんだけども。


 言ってしまうと、あの宣戦布告した日からは三日経っていて、しかもこれを毎日繰り返しているので厳密には九戦九敗である。あ~あ、可哀想だなぁ相澤くん。


 リサちゃんのお迎えが来るのを葵ちゃんと一緒に待つことにしたわたしたちは、首をひねって困ったように肩をすくめる相澤くんの脇を通って教室を出た。


 もちろん、その間に相澤くんと目線で攻撃し合うのも忘れない。ほほう、相澤くんも様になってきたなぁ。



「……これ、いつまで続くんでござろうか……」



 隣で葵ちゃんが呆れたように見上げてくる。まぁ、葵ちゃんからしたら他人事なんだろうけど、こういう一時一時の攻撃も大事なんだって。


 訴えてみるけど、やっぱり理解はしがたいようで「何も言えないでござる」とお手上げされてしまった。


 うーん、前は葵ちゃんも和久津くんとはこんな感じだったんだけどなぁ? 仲直りして、争わなくなっちゃったからなぁ。でもあれは、敵意というよりかは気を引くためのものだったのかな。



「みっちゃん、頑張ってね~」



 なぜだかリサちゃんも他人事だった。あの、どっちかって言うと当人なんだけどね。でもわたしを応援してくれてるってことは、リサちゃんも相澤くんを邪魔だと思ってるってことでいいんだね?


 よぅし、それならわたしも先が見えてきてやりやすいぞ! もしリサちゃんもその気だったらどうしようかと思ってたけど、態度を見るに拒否してるって感じだし。


 あんまりリサちゃんの恋愛事って聞いたことなかったけど、こんな反応をするんだなぁ。


 あれやこれやとやっている内に、校門の前に着いた。ここでリサちゃんの車を待つ。



「リサちゃん、わたしの知らない内に相澤くんから何かされてない?」



 ずっとべったりくっついていても、一瞬目を離した隙にも相澤くんは動いているかもしれない。心配になって、リサちゃんに問いかけた。



「う~ん、そうだなぁ。転びそうになったところを何度か助けてもらったよ~。でも、それで怪我する頻度が前より少なくなったし、良いことだと思うよ?」



 リサちゃんがそう言うなら、わたしが口出しすることでもない。わたしも、リサちゃんの怪我が減るのは大歓迎だ。


 だけどそこで、リサちゃんが言葉を詰まらせる。そして、何かを思い出したように声をもらした。



「――あっ、でも……」


「でっ、でも!?」



 えっ、なになになに!? セクハラでもされた!?



「う~んと……骨折して、病院でお母さんを待ってる間――――告白されたよ」


「えっ。……………えっ!?」



 こっ、告白ぅ!?



「えっと、一年のときから気になってたって」



 な! な! な! な!


 なにぃ!?


 なんたることだ! いや、ていうか、言うタイミングおかしくない!? えっ、待って一年のときから!?


 葵ちゃんもこれには驚いた様子だった。リサちゃんはそのときのことを思い出したのか、少し照れくさそうに頬を赤らめる。あれ!? 嫌なんじゃないの!?


 ツッコミ所が多すぎて、処理しきれない。


 そういえば前に相澤くんと、好きな人がいるかって話をしたことがあるような……。いるって言ってたな。あれって、リサちゃんのことだったんだ。ていうか、本当のことだったんだ。



「まぁすぐに断ったけどね」


「そういう感情を、一ミリも、相澤くんに持たなかった!?」


「あ~、う~ん。そうだなぁ。なんていうか、いくら相澤くんでも……みっちゃんには、勝てなかったかな」


「えっ?」



 リサちゃんと数秒見つめ合う。なんだかそれにドキリとしてしまって、でも目は離せなかった。


 えっと……これって……。



「あっ、車来た。じゃあ二人ともまたね~」



 何か言う隙も与えずに、リサちゃんはわたしたちに手を振って、車に松葉杖をついて近づいていく。スピードは普通に歩くより当然遅いのに、わたしは追いかけることをしなかった。


 そのまま車に乗っていくリサちゃん。もう一度車の中で手を振ってくる。それにぼんやりと、手を振り返すことしかできない。


 車が走り出す。残されたわたしと葵ちゃん。



「……あの、そのー、せ……拙者たちも、帰るでござる?」



 気を遣って話しかけてくる葵ちゃんに、わたしはまだぼんやりとしたまま、頷いたのだった。

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