名取くん、気付いてないんですか?


 今日は相澤くんに邪魔されないように、この間より早めにリサちゃんの家の前に来た。もしかしたらまだリサちゃんも用意済んでないかもしれないけど、相澤くんに負けるよりはずっと待ってた方がましだ。


 一応来たことは言っておこうと思ってリサちゃんに家の前にいるとメールを送る。すぐ返ってきた。と、同じくらいに相澤くんが遠くからやって来るのが見えた。


 ふふん、と少し勝ち気な表情でメールを開く。



『ごめんね! 今日は、っていうか、骨折が治るまでは行き帰りお母さんに送ってもらう事にしたんだ~! 先行ってて~!』



 ……え? 冷や汗が垂れた。そういえばもう夏だよね~、実は衣替えもしたし~。


 ……じゃなくて。え、あー、そっかー。


 わかった! と空元気で返信して、落ち込んだ気分で学校へと向おうと体の向きを変えた。そこで、リサちゃんの家の家に着いた相澤くんと対峙する。


 見下ろしてくる相澤くん。『今、ひとりで学校に行こうとしてるよね?』という顔。説明しろというオーラ。


 即座に話した。


 そっか……。と寂しそうに笑う相澤くんに、胸が痛む。おっと、ダメだダメだ。まだ完全に悪役になりきれてないぞ、朝霧みお。


 ていうか本当に、リサちゃんのことが好きなんだ……おおっと! ダメだダメだ!


 結局そのまま相澤くんと学校へ行くことになってしまい、今意地悪するべきか否かを決めている間に学校まで後十分という道になってしまっていた。


 一応相澤くんからポロポロと話題を出してくれていたので、気まずい雰囲気にはならなかったけど。



「あのさ、朝霧さん」



 という、明らかに重さが今までとの雑談とは違うことに気付いて、意地悪うんぬんかんぬんは一旦保留にすることにする。



「な……なんですか」



 身構え過ぎて、思わず敬語になっていた。



「えっとさ、俺のこと、邪魔だと思ってるよね?」



 う、うわ……ズバッと聞いてきた。い、いや、態度にはあからさま出てたと思うから、確信を持って聞いてるんだろうけど。まさかそこまで直接的に聞いてくるとは思わなかった。図太いな……。


 わたしは隠す必要もないと判断して、一度だけ頷く。邪魔っていうか……断られ続けてるのにまだ寄ってこようとしてるのが嫌なんだよね。リサちゃんも、迷惑してるみたいだし。



「でもさ、理沙子ちゃんはどうなのかな」


「え……?」



 何言ってるんだろう。そんなの、断られた相澤くんが一番わかってるんじゃないの? それとも、まだチャンスはあるって言いたいの?


 わたしの疑念が伝わったのか、相澤くんはくすりと笑った。なんか、腹立つんだけどその笑い方。


 ……と、相澤くんが口を開けるのを見て。



「そろそろ、解放してあげたらどうかな?」




 相澤くんの笑顔が――――消えた。




「朝霧さんが、理沙子ちゃんを縛ってるんだよ」



 無表情で、重く、重く。


 頭に、肩に、心に、のしかかる。


 なんだろう。なんだか、頭がガンガンと痛く感じてきたような。いや、違う、これは、単なる思いこみだって。でも、どこかはわからないけど、すごく……重い。体は簡単に動いているのに、重い。


 気付いたら学校へ着いていて、相澤くんの方を見ると……いつもの、笑顔だった。


 なんだったんだろう。


 怖い。相澤くんが、怖い。


 さっきの無表情が、頭から離れない。


 『朝霧さんが、縛ってるんだよ』


 ……いったい、どういう意味?

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