名取くん、気付いてないんですか?

※ ※ ※


 ……球技大会がやってきてしまった。


 クラス対抗の球技大会。一応、うちはハイスペックイケメン二人と運動神経おばけの葵ちゃん、他、運動部のエースがいるおかげで、二年生では総合優勝候補などと騒がれている。


 体育館二面と、格技場を使ってバレー、バスケ、卓球の三種目を同時にやることになっている。


 対戦順は体育委員が事前にくじ引きで決めていて、わたしのクラスはバスケだけ一回戦シードだ。まぁきっと、バスケの場合は男女共に圧勝だろうから、シードでちょうどいいんじゃないかと思う。


 応援は満遍なくできるように、一種目一学年で行っていく。二年生の最初は、卓球だ。……わたしだ。


 卓球は男女六人ずつをダブルスで試合して、勝った組が多いクラスが勝ちだ。しかし、うちのクラスはリサちゃんが出られないので五人で三組を作る。


 わたしは二試合目だ。パートナーの子とどういうところは誰が打ち返すかを決めて、準備は万端!



「あ……」


「あ……」



 名取くんと、どちらからともなく声を出す。しばらくあまり話せてなかったので、どうもどう接するべきか迷う。あのデートの日から、なんかぎこちなくなったんだよね……。



「が、頑張って、朝霧さん」


「う、うん……! ま、まかせて!」



 やっぱり、なぜかぎこちない。


 でも、ひさしぶりに名取くん補給ができた! なんか、元気とやる気に満ちてきた気がする! ようし、頑張るぞ!



 一試合目は、負けてしまった。いい勝負はしていたんだけど、後ろばっかりは見ていられない。次、わたしたちが勝って、挽回すればいいんだから。


 ……コートの前に立つ。ラケットを握る。これは、卓球部の子に教えてもらった正しい持ち方。やっぱり正しい持ち方をするだけで、違ってくるらしい。


 サーブは、こちらからだ。緊張した空気が格技場を包む。名取くんも見てくれてるんだから。良いところを見せなきゃ!


 試合が始まった。やっぱり素人同士の戦いなので、軽い打ち合いのラリーしか続かない。そのラリーの間で、どれだけミスを減らすかがポイントだ。


 半分に分けて打ち返すのをどっちかに決めたのがいい調子で続けられている。一番悩むのは真ん中だけど、それはわたしが拾うことになっているので迷うこともない。


 相手がミスをして、こっちがミスをして。カン、コン、とピンポンの心地いいラリーが続いた、結果。



 ――――男女ともに、学年二位。


 決勝まで行って、負けてしまった。うーん、良いところまで行ったんだけどなー、あー、いや、負けを引きずりすぎてもダメだよ……。次の応援に徹しよう……。でも、早速総合はなくなっちゃった……。



「朝霧さん、お疲れ」


「あ……名取くん」


「残念だったね」


「うん……」


「あ、でも、次、バスケだから! きっと勝てるよ!」



 名取くんは、励ましてくれる。でも励まし方は不器用で、なんとも名取くんらしい。それに心がほぐれて、自然に笑顔が出てきていた。


 やっぱり名取くんは、すごいや。



「そうだね」


「……っ、う、うん……」



 笑うと、名取くんは顔を逸らしてしまった。……なんか、疲れて変な顔になってたのかな? それとも、汗臭い……!?


 バスケはシードをもらってるから応援まではまだ時間がある。誰かクラスの子に、制汗スプレー貸してもらわなきゃーーーっ!

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