名取くん、気付いてないんですか?


 バスケも終わった。


 なんていうか、何も言えない。いや、あの……圧倒的勝利すぎて。何もコメントできません。


 試合以外で言うことなら、軽々と男女ともに優勝したときの葵ちゃんと和久津くんのプロオーラがすごかった。光り輝いてた。逆光かと思うくらい、背中から謎の光を浴びてたよ。


 その後、優勝するのは当たり前だったというくらい自信満々のドヤ顔で二人がハイタッチしたのは、いい歴史になるだろう。パチンッ(キランッ☆)みたいな、SEが入ってそうな感じだった。


 さあ――次はバレーだ! 名取くんだ! 目一杯応援するぞ!


 ……ん?


 相澤くんが、なんか、椅子に座って観戦していたリサちゃんの元に近づいていく……。これは、邪魔するべきかなぁ!?


 そろりそろりと二人に近寄って、死角で聞き耳をたてる。



「理沙子ちゃん」


「みっちゃんに変なこと言ったらしいね~」


「あー、うん。そういえば言ったね」


「何考えてるのかな~?」



 ……ん? な、なんかリサちゃん、怒ってる……? 口調はいつも通りだけど、なんか言い方が刺々しいような……。


 わたしの知ってるリサちゃんじゃない……。



「んー、だって、ああでもしないと駄目でしょ?」


「駄目って何がかな~? 私はみっちゃんを心配させたくないし、迷惑かけたくないし……困らせたり、悩ませるのも嫌なんだ~。……知ってるよね?」


「だから、それが俺にとって邪魔だからだけど」


「私に自分で考えてほしいってことでしょ? わかってるよ~。それで、考えた結果があれなんだけどな~」


「いや、考えてないよ。あれは、朝霧さんの意見だ」



 えっ、わたし!? わたしが何!?


 ていうか本当、リサちゃんがわたしといるときと全然雰囲気が違うような……。相澤くんも、好きな子に対してにしてはちょっと攻撃的な言葉選びじゃない?


 そもそも、なんの話をしてるかすらわからないけど。わたしも関係してそうなんだよね。



「なんか、いやーな攻め方してくるよね~相澤くんって」


「理沙子ちゃんが本当のことを言ってくるまで、やめないよ」


「………なに、それ~」


「あ、バレー始まるかな。じゃあ、待ってるからね」



 そうして、わたしが邪魔する時間はなく、相澤くんはコートに並びに行った。残されたリサちゃんはその背中を視線で追いかけて……深くため息をつく。どことなくそれは、乙女のため息のようにも見えて。


 ……そのため息には、どんな意味があるんだろう。迷惑で、うざったかったからか、それとも……。



「朝霧さん」



 突然名前を呼ばれて、思考が止まった。声の方を振り向くと……ひさしぶり、土屋さんだった。目が合うと、にこっと笑いかけてくれる。隣には、清々しさで満たされた表情の葵ちゃんもいた。


 土屋さんから話しかけられることと言ったらひとつしかなく、でも葵ちゃんと一緒にいるってことはもうその話はしたんじゃないだろうか。


 つまりわたしに話しかけたということは何か別の理由があるのかな?



「ひさしぶり、土屋さん」


「ひさしぶりです。あれから何もないようで、安心しました。飽きたんですかね。良かった」



 あ、やっぱりその話かな? と思っていると、「さすがにこれだけ言いに来たわけじゃありませんよ」と言われてしまった。



「私、バレーなので、別のクラス応援してとは言いませんが、見てほしいなと思いまして」


「えっ、応援? するよ! まぁ……確かに、別のクラスはできないけど、土屋さん個人は応援するよ!」


「あ……ありがとうございます。実は、中学の頃バレー部だったんで、自信あるんです。負けないですよ?」


「おっ、言うねー」



 土屋さん運動部だったんだ。なんか、意外だなー。見た目は完全におとなしめな文系少女って感じだし。



「みお殿、男子のバレー、始まるでござるよ!」


「えっ、ほんと!?」



 葵ちゃんが教えてくれて、話を中断してしまって悪いのは承知でコートの方を見る。でも、まだうちのクラスの出番ではなかった。相澤くんは、早とちりだったのかな。あ、いや、集合して作戦会議なのかも。


 せっかくなので今のうちにリサちゃんのところへ行こうと二人を誘って、パイプ椅子に座るリサちゃんの元へ近づいた。


 わたしたちに気付いた途端、リサちゃんは笑顔で手を振ってくれる。さっきまでの相澤くんとの雰囲気はない。うーん、やっぱり、あれは相澤くん限定とか?


 土屋さんはリサちゃんが骨折していたことを知らなかったので、すごく驚いていた。でも、ドジっ気があるのはわかっていたようで、注意力は大事なんですよと説いている。 



「そういえば、男子バレーにすごく食いついてましたけど、何かあるんですか?」


「えっ!? あーう、うん、まぁ……す、好きな人がね……?」


「……あ~。………そ、そういえば、さっきすごかったですよね、朝霧さんのクラスのバスケ」



 きっと、和久津くんを思い出しているのだろう、土屋さんの頬が赤い。だけど、それをごまかすように葵ちゃんの方を見て「も、もちろん八雲さんのことですけど……!?」と早口でまくしたてている。


 葵ちゃんは「あ、ありがとうでござる……?」と困惑気味だけど、なにか違うと察してるようだった。


 そんな中、わたしはそろっとリサちゃんに目を向ける。二人のやりとりを微笑ましそうに見るその瞳は、うん、やっぱりいつも通りだ。


 元気がないように見えるのは、気のせいかな。

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