名取くん、気付いてないんですか?
うちのクラスのバレーが、始まった。バスケのときもそうだったけど、和久津くんか相澤くんがいたら歓声にモスキート音みたいなの混ざってるよね。若いからまだ聞き取れてる感じ。
名取くんは、レシーブがうまい。器用っていうのかな、サーブの威力はないけど、コースアウトもなくボールが正確なんだ。もしかして、バレー得意だったのかな。知らなかった。
うーん、真剣な名取くん、かっこいい。……さっきから軒並み点を入れていくのは、相澤くんだけど。相澤くん邪魔なんだけど。
「名取くーん! 頑張ってーー!!」
他の声援に負けないように、精一杯声を出す。名取くんに届いたかはわからないけど、わたしが声を出した瞬間に名取くんのところへ行ったボールは落ちてしまった。
……あ、あれ? 名取くん、ミスしちゃった。
ミスをした名取くんは、なんだか頬が赤かった。ミスして、恥ずかしいのかな。
ううん、名取くん、何も恥じらうことはないんだよ! ミスをして、学んでいくんだと思うよ! 戦いの中で成長する、みたいな!
それから、何度か名取くんの方へボールが行ったときに声を出してみたけど、出さないと返せるのにわたしが出すとミスしてしまう現象が発生していく。
ええっ!? なんでー!? わたしの声援、何か不幸な力でも働いてるのかなぁ!?
うう……それなら、声援はやめた方がいいよね……。こんな日に、わたしだけ名取くんの応援ができないなんて……。
そんなのって、ないよ、神様の意地悪ー! 呪ってやるー! ……呪われてるのは、わたしの声援だった。はぁ。
――結局、一試合目はなんとか勝てた。途中で、わたしが応援できなくなるという代償を負って。
とりあえず名取くんに一言かけようと、タオルで額を拭く名取くんに駆け寄る。
「名取くん、おめでとう!」
「うっ、あ、朝霧さん……」
あれ、なんだろう、さっき距離を取り戻したと思ったのに、またぎこちなくなってる。え、なんで? もしかして、これも声援の呪い?
「朝霧さん……あの、さっきは、ごめん」
「えっ? なにが? かっこよかったよ?」
「あ、ありがとう……あの、じゃなくて、朝霧さんが応援してくれる度、俺、外してて……」
「と、届いてたの……?」
他にもあんな大きな声があるのに? 絶対かき消されてると思ってたのに……。
「え? うん。なんか、朝霧さんの声はやけに鮮明に聞こえて……それで、ついそっちに意識が逸れちゃって」
「そ、それって、わたしのせいなんじゃ」
やっぱり呪われてるんだ! 鮮明に聞こえるのも、そうやって集中を途切れさせるために違いない! ずっと叫んでなくて、よかった~!
「……。……そ、そうじゃなくて……あの……」
名取くんが、ミスした後と同じように頬を赤くする。
「朝霧さんの声だって、意識して……その、喜んじゃって」
「……え、……えっ!?」
「あっ、あ~っ! 今の忘れて! そんなので気を取られてミスとか、やっぱりダサいし!」
えっ、えっ、そんなのって、あの……。わたしまで、赤くなっちゃうんだけど……!
二人で真っ赤になって向き合って、馬鹿みたい。でも、名取くんの赤面は結構レアだから、目の奥にくっきり焼き付けておくことにする。
「じゃあ、もう応援しないほうがいいよね……」
「うん……ごめん」
でも、心の中なら神様も許してくれるよね! 心の中で、人一倍、名取くんだけを想って、応援するから!
そうして、今日は名取くんに声援は出さないことを誓ったわたしたち。
二試合目、三試合目と続いていき……なんとか、決勝戦まで勝ち進めることができた。声援出せなくて、物足りないけど! 心の中までは、呪われてなかった!