名取くん、気付いてないんですか?


 授業は終わり、ずっと笑っていた相澤くんを怒ったのに相澤くん保護隊の女子による反撃で撃沈した先生がとぼとぼと教室を去っていく。


 相澤くんは全然反省していなかった。ぷるぷる震えている。これがモテる男の余裕ってやつか。


 なんかさー、うーん、なんか相澤くんって……。



「あ、わかった。相澤くんって、ゲラ?」



 もう相澤くんってずっと笑ってるイメージしか考えつかなくて、至った結論をそのまま本人にぶつけた。


 相澤くんはきっぱりと否定する。長くて大きな手と、しわひとつない首を左右に振って。



「いやいや、そんなことないって。ほら、上品な笑い方でしょ?」


「う、うーん?」



 じ、上品て……。ゲラゲラ笑うタイプではないかもだけど、上品かと言われると……それも違うね?


 それと、否定するのにすごく必死だ。そんなにゲラだと思われたのが嫌だったの? だったら……まあ、ごめんよ。わたしが悪かったよ。


 わたしも結局、イケメンの前ではひれ伏せてしまうのか。うっ……! 悔しい! わたしの頭が下がるのは名取くんの前だけだと思ってたのに!


 心の中で悔し涙を流し、現実では怪しまれないよう笑顔を作った。駄目だった。相澤くんにその笑顔なんか怖いねって言われた。めちゃめちゃ怪しまれてるじゃん。



「相澤くんは、みっちゃんがツボなだけなんじゃないかな~」



 可愛らしく、それでいてゆっくりすぎて聞いた人がでろでろに溶けちゃいそうな声が聞こえて振り向くと、リサちゃんがのほほんとした微笑みでやってきた。


 あ、今のは比喩法。リサちゃんの声は落ち着くからね。



「わ、わたしがツボって……」



 なんだろう。イケメンに気に入られるって言えば聞こえはいいけど、さっぱり嬉しくない。


 相澤くんが笑うのって大抵変なことに対してだし。わたしは変な子って言われてるようなもんだ。普通に酷い。


 まあこれが名取くんだったなら話は別だけどね? 喜んで笑いものになりますよ。空振って真顔になられないことを願って。



「……朝霧さん、帰ってこないね」


「みっちゃん、いつもこんな感じだよ~。こういうときはほとんど名取くんのこと考えててね、ほんと可愛いよね~」


「…………へぇ」



 名取くんと幸せなエンドを終えて、はっと我に戻ったころには、いつも変わらないにこにこ笑顔を提供するはずの相澤くんが消え、代わりにリサちゃんが笑顔成分を分泌していた。


 相澤くんはなにやら深刻に考え事か、憂いを帯びた表情で地面を見つめたり、怪訝な表情でわたしをちら見してくる。


 ん? あ、あれれー? わたし、相澤くんにも何かしたっけ?


 あ、待って、それはまずい。


 イケメン二人組に嫌われたら、名取くんのとこまで行きにくくなっちゃうじゃん!

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