名取くん、気付いてないんですか?
今日も、相澤くんは懲りずにリサちゃんのところへ行って話しかけている。わたしはそれに入り込めなくて、困っていた。
別に、邪魔することはそんなに難しくないんだけどさ。でも、そうじゃなくて……リサちゃんが、嫌がってるように見えないんだ。
球技大会が終わった辺りからは、むしろ自分から話しかけていく姿も見たことがある。
もしかしたらリサちゃん……本当は迷惑してないのかも。
……あれ?
そういえば、リサちゃんは今まで迷惑とも、嫌だとも言っていないような……? いや、そう取れるような言動はしてるんだけど、でも確かに、はっきりとした言葉では言っていない。
だけど、わたしが邪魔しても嫌だと言わない……。どっち、なんだろう。どっちがリサちゃんの本音?
『いや、考えてないよ。あれは、朝霧さんの意見だ』
球技大会が相澤くんが言ってたのって、そういう意味か。
それで、リサちゃんが本音を言わないのは……。
『朝霧さんが、理沙子ちゃんを縛ってるんだよ』
わたし、だ。
わたしがリサちゃんに何かしてしまっている。相澤くんはわたしにヒントをくれてたんだ。相澤くんは全部わかってるんだ。わたしも知らないリサちゃんの姿を。
でも……やっぱり、わたしが何をしたかがわからない。ううん、考えよう。わからない。で終わっちゃダメだ。
ええと、わたしが言った意見を、リサちゃんが自分の意見にして……いや、自分の意見だと言い聞かせて……?
球技大会のときの相澤くんの言葉からすると、そうとれる、よね? リサちゃんは、あたかも自分の意見のようにわたしの気持ちを代弁している、ってこと。
それはリサちゃんが相澤くんへの告白の返事を曖昧に終わらせてるってことで、相澤くんはそれが不満でわたしに文句を言ってきた。うん、繋がってる。
ということは、わたしが縛ってるのは……リサちゃんの、意見……?
もしそうだとしたら、これって、一筋縄では行かない問題なのかもしれない。
だって、わたしはリサちゃんのことが好きで……リサちゃんもまた、わたしのことが好きだからだ。