名取くん、気付いてないんですか?
人気のない自動販売機の前に着いた。わたしは要望通りの飲み物を探して、ひとつひとつ買っていく。
えーと、パックの中身は指定されなかったけど……イチゴミルクなら二人とも飲めるよね。
よくクラスの男子も飲んでるところ見るし、イチゴミルクって意外とみんなに愛される万能飲み物なのかもしれない!
イチゴミルクの購入ボタンを押す。
「あ、あの……朝霧さん……」
ガコンッと、取り出し口から落ちてくる音を聞いていた。
……わたし、ちょっと怒ってるんだよ。
最近どんどん仲良くなれてる気がして、舞い上がってた。もしかしたら名取くんも、わたしのことが少しでも好きになっていってるんじゃないかって、期待してたよ。
「名取くんは……何も話してくれないんだね。自分は、話してほしいって言うのに」
わからない。
名取くんの気持ち、全然読めないよ。
イチゴミルクを取って、二つ目を買おうとお金を入れる。名取くんが気まずそうに「あ……」と声を出して、右手を虚空で掻いた。
「で……でも、朝霧さんだって……結局何も言ってくれなかったよ。俺、頼ってほしいって言ったのに」
「……それは」
確かにそうかもしれない。わたし、葵ちゃんたちのこと、結局名取くんに何も言わなかった。
名取くんも知ってたのに。二人で考えれば、もっと早く二人は解決できてたかもしれない。
わたし、わがままだった……。感情に乗せられて話すなんて、恥ずかしい……。
「……ねぇ、違うよ。俺、朝霧さんと喧嘩したいわけじゃない」
「わたしも、したくないけど……」
どうしよう。
わたしの無駄な一言のせいで、ますますギスギスしてきちゃった。わたしの望んでいたことは、こんなのじゃないのに。
でも……今の名取くんは、明らかに無理をしてる。無理してわたしと仲良くしようとしなくてもいいのに。それならいっそ、仲違いして離れた方が……。
――嫌だ。
それならきっと、わたしだってすっぱり諦められる。名取くんだって、楽になれる。
――好き。
「……名取くん、好き」
そうだよ。わたし、名取くんのことが好き。去年からずっと好きだった。
そう簡単に諦められるなら、もうとっくに諦められてるよ。
「なんで避けるの……?」
名取くんの目をじっと見る。
名取くんに、驚いた様子はなかった。
……わたし、本当は気付いてたのかも。だって、こんな状況になったのに、全然動揺してない。普段のわたしだったらすぐに顔を真っ赤にして訂正してた。
そして、普段の名取くんだったら……もっと驚いて、動揺してくれた。
きっと、偽りのわたしたちだったらつき合ってた。
「えっと……」
名取くんが言葉を詰まらせる。
困ったように笑って。言われたくなかった、みたいな顔をして。
わたしは、このままだらだらと近からず遠からずの関係を名取くんと続けていれば良かったのかな。ううん、嫌だよ。そんなの耐えられない。我慢できない。
「ごめん、俺、そういうのわからなくて……」
だから、わたしの望む答えじゃなくても。
ちゃんと名取くんの口から、本当の気持ちを――言葉を、聞きたい。
「でも、朝霧さんに嫌われたくないとも思ってるから、なんか、距離感がわからなくなっていっちゃったんだ……」
「……そっか」
「うん……。ごめん……」
なんでわたしより名取くんの方が泣きそうな顔をしているんだろう。