名取くん、気付いてないんですか?
「おまたせー」
名取くんにも数個持ってもらい、わたしたちは教室へ戻った。
机にぐったりと倒れる葵ちゃん。どこから出ているのかわからないうなり声が聞こえる。和久津くんは反対に天井を見上げて、覇気を消していた。目に光がない。
「ア”ア”……ア”ァ”……。わ、わかっ、わかったでござ、ア”ァ”……」
「フ、フフフ……もう完璧に解けるぞ俺は……フフ」
不気味なうなり声と、笑い声。
なにこの地獄絵図……。
「あ、おかえりみっちゃん~」
呆れ顔の相澤くんの隣に席を移動していたリサちゃんが初めにわたしたちに気付いた。たぶん、相澤くんは気付くどころではないのだろう……。
わたしはひとりひとりに買ってきた飲み物を渡していくことにした。名取くんもそれに続いて、リサちゃんと相澤くんの分を渡す。
そして、わたしは葵ちゃんと和久津くんの分を……うわぁ、渡しづらい。でも、二人とも頑張ったからこうなってるんだよね。ちゃんとごほうびとしてあげないと。
「お疲れ様」
机にイチゴミルクを二つ置く。するとすぐに二人はゆるゆると手を伸ばして、流れるようにストローを刺した。
ズコーーーッッ!!
そして、勢いよく飲む。一瞬でなくなっていた。
あー、そっか、パックって、量少ないから……。
「足りないでごさる!!」
「糖分が足りない!!」
「よし、もうひと踏ん張りしてもらおう。朝霧さん、悪いけど……もう一回……」
「う、うん……買ってくる……」
相澤くんもここまで来たからには全力だ。そして、たぶん、リサちゃんが隣に来てくれたことにも効果があるんだろう。
また外に行こうと振り向くと、後ろには名取くんがいた。気まずそうに、あからさまに目を逸らして、それから申しわけなさそうにわたしを見つめる。
今更それをしたって、もう遅いのに。
「今度はひとりでも大丈夫だよ。さっきはありがとう、名取くんも勉強してて」
「あ……。う、うん……」
わたしは教室を飛び出した。
名取くん、どうしてそんなに普通そうにできるんだ、って顔に書いてあったな。逆に、平然を装う以外に何をすればいいっていうんだろう。
そりゃあ確かに悲しい。今すぐ泣いてしまいたい。
でも、それって何か違う。わたしは今告白するべきではなかった、そういう話。名取くんは何も悪くない、わたしが勝手に告白しただけ。
名取くんにも、勉強をがんばってる葵ちゃんや和久津くんにも、教えてる相澤くんにも、心配をかけちゃいけない。せっかくの空気が壊れちゃう。
それに――。
わたし、さっきも言った。
そんな簡単に諦められるなら、もうとっくに諦めてる、って。
つまり、そういうこと。
――――まだ、わたしは諦める気はないよ、名取くん。