名取くん、気付いてないんですか?


 テストが返却された。


 名取くんのことをいったん忘れるために、無心でガリガリと勉強したら、点数の上がり方がすごい。


 出席番号順に戻ったため、少し離れた席の和久津くんを確認すると、どの教科も大きくガッツポーズをして周りの人に見せびらかし――ちなみに先生に怒られてました――相澤くんに向かって満面の笑みを見せていた。


 へぇ……和久津くんもあんな風に笑うんだ……。と思っていたら、他の女子もそう思っていたらしく、ヒソヒソと頬を赤くしながら耳を寄せ合っている。


 そっか、最近一緒にいることが多かったから忘れかけてたけど、そういえば和久津くんってイケメンだったな。



「や、や、や、やったでござる~~~!!!」



 葵ちゃんも同じように騒いで、先生に怒られていた。



「……ねぇねぇ、みおちゃん」



 ん?


 そんな声が聞こえた後、わたしの背中をとんとんと叩いてくるのは後ろの席の女子。普段は軽く挨拶や世間話をする仲だ。こうやって呼ばれることはほとんどない。


 「どうしたの?」と振り向くと、彼女は前に乗り出て顔を近づけてくる。どうやら耳打ちをしたいらしいので、わたしも耳を聞こえやすく近づけた。


 彼女は若干頬を染めて、興味津々な顔つきで聞いてくる。



「みおちゃんって、最近和久津くんと仲良いよね」


「えっ、そうかな」



 それは、名取くんの近くに和久津くんがいるからだと思うけど……。



「うんうん、だって今、席隣でしょ? 和久津くんって女子が隣だったらあんまり話してくれないらしいよ」


「……そうなんだ?」



 えっと……これ、もしかして何が言いたいかっていうと……。


 嫌な予感するなぁ。わたしと和久津くんがよく話すのだって、だいたい名取くんか葵ちゃんの話なんだけど。


 たぶん、葵ちゃんの方が和久津くんと仲良いと思うよ……?



「で……狙ってるんだよね?」


「……はぁっ!?」



 うわ、当たった嫌な予感!


 なんてことだ! わたし、端から見たら名取くんとより和久津くんとの方が仲良く見えてるの!? えっ、最悪なんだけど!


 イケメンと仲良くするのって怖い……すぐ言いがかりつけられる……。まだ罵倒とかされない辺りこの子はましだけど……。



「え、いや、ちが……」


「ごまかさなくていいって! あたし、応援するから! みおちゃん良い子だしさ、和久津くんをあげてもいいかもねってみんなで話してたんだよ!」



 早口でまくし立てられる。


 なんか外堀埋められてない!? わたしの意志無視なの!? 後、なんか上から目線なのはなんで!? わたし、一言も和久津くんがほしいなんて言ってないから!



「今思えば、前は相澤くんと隣だったよねー? もしかしてみおちゃんって意外と……肉食系?」


「くじ運で肉食系認定されたのわたし!?」



 もうやだ! 早く席戻そうよ! あっ、ダメだ、和久津くんと隣になってしまう! あっ、いや待て、席替えがあるよ! 今は七月だもの!


 よし、せんせー! 早く席替えしましょー! そして、今度こそ私を名取くんの隣にしてください!



「あ、あのさ、わたしより葵ちゃんの方が和久津くんと仲良いよ?」


「うん、なんか兄妹みたいだよねあの二人」


「あっ……そ、そういう認識……」



 いや、わたしと葵ちゃん、一体何が違うの……!?

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