名取くん、気付いてないんですか?



「みっちゃんみっちゃん~!」



 休み時間、リサちゃんが駆け寄ってきた。嬉しそうなその笑顔は癒し系の真骨頂であり、まだ誤解されたままの和久津くんの件をすっと忘れさせてくれる。


 しかし後ろに困った顔の相澤くんがいたことで、わたしは癒しの効果を失ってしまった。だって相澤くんがあの顔をするときは、たいていリサちゃんのことなんだもの……。



「どうしたの、リサちゃん」


「うん、あのね~、夏祭り行こうよ~!」



 ……おっと?


 夏祭りで何かあるんだな相澤くん……。



「えっと、いいけど……あの、相澤くんは?」



 相澤くんに目線を移す。



「うん! 相澤くんが、屋台奢ってくれるって~!」



 ああ……なるほど、だからテンション高いんだリサちゃん……。


 何よりも食いしん坊が勝っちゃったかー! 残念相澤くん! リサちゃんにデートする気はないようだよ!


 まさに花より団子ってやつだね。去年一緒に行ったときも、花火そっちのけでフランクフルトを堪能してたしなぁ。



「そうじゃなくて……相澤くんに誘われたんじゃないの?」



 そう言うと、リサちゃんはきょとんとした顔でピタリと止まった。



「……あっ! そういうことか~!」


「本当に気付いてなかったんだ……」



 相澤くんが思わずため息をつく。


 最近相澤くんの不憫さが目立ってきてるなぁ。いつもは完璧イケメン風吹かせてるんだけど、リサちゃんのこととなると残念度高まるよね。


 リサちゃんのペースに呑まれてる相澤くんを見るのは面白いんだけど……たまには、相澤くんに良い思いをさせてもいいかもしれない。



「そういうことだし、二人で行って来たらどうかな? それに、わたし……名取くんを誘いたいし……」



 ちらりと名取くんを見る。一瞬目が合ったかと思ったら、すぐに逸らされちゃった。会話は聞こえていなかったみたいで、驚いた顔だったり嫌な顔だったりはされなかったけど。


 せっかく名取くんがわたしの方を見てたのに、なんか、嬉しくないのはなんでだろう。


 断ると、リサちゃんは露骨に肩を落とす。



「……しょうがないね~」


「理沙子ちゃん……嫌なの?」


「ううん、大丈夫だよ~。じゃあ二人で、行こっか?」


「……うん。また、俺のこと遊んでるでしょ」


「え~? なんのこと~?」



 もう少し続いたそんな二人のいちゃいちゃは省略――。



 よし、宣言した通り、名取くんを夏祭りに誘うぞ!

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