名取くん、気付いてないんですか?
「みお殿、師匠がみお殿を夏祭りに誘いたいって言ってるでござるよ」
「言い方ぁ!」
「ブェッ!?」
和久津くんが葵ちゃんにチョップを繰り出した。
あれ……? なんでわたし和久津くんに誘われてるの……? なんでわたし、名取くんを誘えてないの……!?
いや、だって、露骨に避けられてるんだよ! いくら話しかけようとしても逃げられちゃうし、夏祭りのなの字も言わせてくれない! 最終的には男子トイレにまで隠れられるし、そんなの卑怯すぎるよね!
ていうか……だからなんでわたし、和久津くん、っていうか葵ちゃんから誘われてるんだろ。二人で行って来ればいのに。……うわ、なんか刺々しい。わたし今、あんまり機嫌が良くないなぁ。
「あー、なんだ、その、朝霧には世話になったし、そろそろここで礼をしておこうかと……」
「名取くん」
「……え?」
「名取くんがいないなら、行かない」
……嫌な思いさせるかな。ううん、断るときははっきり断らないと。
「朝霧……」
名取くん名取くんって。もうふられてしまったし、いい加減諦めた方がいいって、わかってるんだけどね。
でも……やっぱり何回も言うけど……好きだな。うーん、わたしって諦めが悪い。
和久津くんと葵ちゃんに一瞬笑いかけて、自分の席に戻ろうとする。そのとき……わたしの服の袖が小さく引っ張られた。
「あっ……えっと……みお殿……」
わたしと和久津くんを交互に見て、葵ちゃんはわたしを呼び止める。葵ちゃんは、和久津くんの味方をしたいみたい。
わたしが折れるのを願うような瞳で、申し訳なさそうに、けれど力強く、くいともう一度袖を引っ張ってくる葵ちゃん。
うーん……折れてあげたいけど、名取くんがいないと……。名取くんも一緒に行けたらいいんだけど、わたしからは誘えない、誘う前に逃げられちゃうし……。
「わかった。じゃあ大和も誘おう」
進まない会話に、腕を組んだ和久津くんが結論を出した。
だけど、その考えは……。
「えっ」
「……? 二人きりじゃないと嫌とか言い出すのか?」
「いやっ、それはさすがに……」
名取くんが嫌だろうな。たぶん、一緒に行くことすら。だから逃げられてるんだろうし。
「じゃあいいだろ」
「あの、その……えっと、実は……ちょっと喧嘩みたいなもの、しちゃって。名取くん、わたしがいるって知ったら来ないかも……」
厳密には喧嘩はしなかったけど。でもこんなの、してるのと同じだ。わたしはどんどん名取くんに近付きたいけど、近付く度に離れられるのは何も距離が変わってないんだから。
すると一瞬、和久津くんはめんどくさそうな顔をした。まぁ……そんな顔をしたくなるのもわかる。実際、今のわたしってすごくめんどくさいよね。
「あー、偶然会ったってことにしたらいいんじゃね」
「どういうこと?」
「まず俺が大和を誘って、二人だけで行く。そんで、朝霧と葵に後から会って、合流するんだ」
それだったら逃げにくいよな、と和久津くんは続ける。
結構、驚きだった。
諦めないんだ。どうにかして、一緒に行く方法を考えるんだ。
和久津くんって……そんなにわたしと行きたいの、かな? ……おっと、いけないいけない。うぬぼれだ。また女子にからかわれるネタになってしまう。
「どうだ?」
「……。……うん、良いと思う」
「よっしゃ。早速大和誘ってくる!」
そして和久津くんは小さくガッツポーズをして、名取くんの席へ駆けていった。
なんて……嬉しそうな顔をするんだろう。
「師匠も、拙者も。みお殿には感謝してるんでござる」
葵ちゃんがわたしを見上げる。
「だから、どうしてもお礼をしたかったんでござるね。――いつの間にか師匠、みお殿のこと大好きになってるんでござるよ」
「……えっ!?」
大好き!?
それって、どういう……。
「もちろん、拙者も大好きでごさるよ、みお殿のこと」
「あ……う、うん、ありがとう……」
なにこれめっちゃ照れる。
葵ちゃんは、名取くんに話しかける和久津くんを嬉しそうに見つめていた。