名取くん、気付いてないんですか?
放課後。帰りの挨拶をしようとしたら……また、名取くんが男子トイレに入った。それも駄目なんだ……。
今日これで何回目? ずっと好きな人に無視され続けるって、さすがに精神にくるんだけど……。
トイレの前の壁に寄りかかって、ゆっくり目を瞑る。名取くんが出てくるのを見ててもいいけど……いや、駄目だな。男子トイレの中を覗こうとしてるようにしかみえないなそれ。
うーん……諦めないって決めたはいいけど、このままじゃ嫌われルート一直線なんだよね。どうにかして何か、せめて今までみたいに会話くらいはできるようになりたい。じゃないと、アプローチもできないしなぁ。
夏祭りに掛けるしかない、か。せっかく和久津くんが用意してくれた機会、うまく使わないと……。
「……あっ」
名取くんの声が聞こえて、目を開けた。そこには、トイレから出ようと顔を覗かせる名取くん。どうやら、静かになったからわたしはもう行ったんだと思ったらしい。
わたしはもたれ掛かっていた壁から背中を離し、名取くんに笑いかける。
「もう……話してくれる気になった?」
「あ……っ、えっと……」
名取くんはもごもごと言葉を濁して、また顔を隠す。
なんで、って。思ってるんだろうな。わたしがまだ名取くんを追う理由が、よくわかってないって顔だった。
ふーむふむふむ。なるほどね。つまり……まだ、伝わってないってことか。
わたしの、名取くんへの100%の愛が!!
これは俄然燃えてきた! 絶対名取くんに、わたしのことが好きって言わせたい!
「えっとね名取くん、好きだよ」
「なっ――ごほっ、ごほごほっ!」
あ、むせた。可愛いなぁ。これで少しはわたしの気持ち、伝わったかな?
よし、早速帰って夏祭りの計画たてなくちゃ!
「名取くん、また夏休みにねーー!」
もしかして名取くんは押しに弱いかも?
……って、あれ? わたし今、夏休みに会うこと前提で挨拶したな。
あっこれ駄目だ。夏祭りにバレるパターンだ。