名取くん、気付いてないんですか?
わたしは帰ってから、真剣に作戦を練った。
その名も……名取くん押せ押せ大作戦!! もうわたしの気持ちは伝えたんだし、後は名取くんにわたしを好きになってもらうだけ!
逃げてばかりの名取くんだけど、夏祭りなら人ごみもあって逃げづらいに違いない。わたしと和久津くんと葵ちゃんで周りを囲えば、さらに逃げづらくなる!
よし……やるぞ、わたし。大丈夫、告白できたんだから、それ以上に緊張することなんてないはず。
「……」
練習しよっかな!
わたしは少女漫画が詰まった本棚に向けて、大きく息を吸った。
「名取くん、好き! ……いや違うな、もっとこう、感情的に……昨日名取くんと手を繋ぐ夢をみました、好き! ……わけわかんないなこれは」
本棚から少女漫画を抜き出して、適当な告白ページを開く。
うーん、何か、参考になるもの……。
――あっ、これか!?
「おまえ、今日からわたしの彼氏な。拒否権ねぇから」
………。
……うん。
絶対違うね。
「言葉が駄目なら、行動かな」
まずは定番の壁ドン。こう、壁に手をついて、少し名取くんを見上げる……。あっ、これさっきの台詞のタイミングだ! おまえ、今日からわたしの彼氏な。拒否権ねぇから。
対する名取くんの反応……。うわっ、ドン引いてる。そろそろ本格的にヤバいやつだと思われてる。そんな未来が見える。
そういえばわたし、和久津くんに初壁ドンを奪われてるんだよね。そのときのわたしの気持ちって、すごく怒ってた気がする。好きでもない人にされる壁ドンって最悪なやつだ!
危なかった! 気付かなかったら、もっと名取くんからの好感度が下がるところだった……!
名取くん、愛鉢でいえば瞬くんの方が好きっていってたし、俺様よりツンデレの方がいいかも。
「あんまこっちに寄んな……! 期待、しちまうだろ……」
………。
こ――
これかも!!
なんかしっくり来た! ここで顔を赤らめて、腕で表情を隠そうとする! でも、耳まで赤いので好意はあからさま!
これは名取くんもドキドキするんじゃない!? つられドキドキ! 別に好きではなくても、なんとなくドキドキ! 意識ドキドキ!!
やったーー! これでいこ! 好意はだだ漏れ、でも必死に隠そうとする姿勢! ギャップ! ギャップも狙えるに違いない!
後は――あっ、浴衣か! 去年着たやつ、どこに直してるんだっけ? お母さんに聞きに行こう。
「お母さーん! 去年の浴衣って……」
ドアを開けて、階段と廊下越しにお母さんに話しかけ……
お母さんが廊下で聞き耳をたてていた。
「……」
「……」
じわじわじわ、と。わたしの顔は、熱くなっていく。
「……ごめん。なんか騒がしいと思って見に来たら……。あの、えっと、ちゃんと友達……いるの?」
エア友達と会話してたわけじゃないし!
「も、もおぉぉおおお!! 言ってよーーー!!」
その夜。我が家では、そんなわたしの叫び声が響いたのだった――。
※ ※ ※
翌日。
「おはよ~、みっちゃん~」
「ば、ばっか! あんま近付くなよ! ドキドキ、するだろ……」
「……みっちゃん……」
リサちゃんのこの反応で、ツンデレもなしになりました。