名取くん、気付いてないんですか?


 さて……待ちに待った夏休み。わたしは葵ちゃんと夏祭りに来ているわけだが……。



「人が多すぎて、和久津くんたちが見つからないよーー!!」



 わたしは頭を抱えた。


 失敗したなー! わたし、和久津くんとアドレス交換しとくんだった! 葵ちゃんも知らないっていうし! これじゃあ合流できないじゃん!


 葵ちゃんは葵ちゃんですごく夏祭りを堪能してるし……あっ、たこ焼き買ってきてくれた……ありがとう……。


 人の少ないところへ寄って、買ってきてくれたたこ焼きを食べることにする。まずは腹ごしらえだ。腹が空いては和久津くんを探す集中力も保たない。


 あー。焼きたてで美味しいなーたこ焼き。今から好きな人に出会う行動じゃないなーこれー。



「はふっ、あちちっ、見つからないでこざるねー、師匠たちー」


「そうだねぇー」



 なんだか脱力する。もう一度言うけど、今から好きな人に出会う行動じゃない。


 せっかく浴衣着たのに、見てもらえなかったら意味ないよ――



「――はっ!」



 そのとき、わたしの名取センサーが反応した。まさに漫画でよく見るような、キュピーン! ってやつだった。


 あれは……あの後ろ姿は……名取くん!?


 間違いないよ! だって、あの背負っているリュックは、わたしとデートしたときも背負っていたものだ!


 よっしゃー! 見つけたぞ~~~!


 早速追いかけて挨拶を……。



「待って! 葵ちゃん!?」


「ふぉい!?」



 まだたこ焼きを頬張ったまま返事をする葵ちゃんに、わたしは気にせず歯を見せた。



「青のり付いてない!?」



 考えてもみて! 追いかける名取くんの背中、追いつくわたし。「偶然だね!」――ほとんど偶然ではない――とにっこり笑った歯に、青のり!!


 不細工!! なんの格好も付けられない!! これは酷いよ!


 ブンブンと首を横に振る葵ちゃん。しかし、葵ちゃんの歯に青のりは付いていた――たこ焼きはまだ食べるようなので、そっとしておく。



「名取くんたち見つけたから、追いかけるよ!」


「了解でごはふっ!」


「食べながら喋らない!」


「んー!」




 はぁ、はぁ、はぁ……。


 ――――追いつかねぇ……。


 人混みでまったく進めないわ、なぜか向こうは人混みに流れるの上手いわ歩くの速いわで、全くといっていいほど距離は縮まっていなかった。


 ひたすら二人の後頭部だけが見える状態だ。



「みおどのー」



 葵ちゃんがわたしを呼ぶので隣を見る……と、いるはずの葵ちゃんがいない。



「みお殿ー! 助けてでござるー!」



 後ろに流されてる!?


 必死に手を伸ばしてくる葵ちゃんを助けようとして、一瞬思考が止まる。


 ここで葵ちゃんを助けたら、たぶん名取くんとは完全に離れてしまう。そうなったら、またいつ見つけられるかわからない。もしかしたら、見つけられないまま夏祭りが終了するかも。


 耳に、遠く、しっかりと、葵ちゃんの声が届く。


 恋愛と、友情。どっちを選ぶ? ……今更なに、言ってるんだろう、わたし。いつだってわたしは。



「葵ちゃん!!」



 ――友情を取ってきた!!


 葵ちゃんの小さな手を指で触れる。そのままもっと腕を伸ばして……ぎゅっと、握りあった。どちらかともなく引き寄せ合えば、自然と人混みの外へ放り出されていく。



「ぷはぁ! はぁ、はぁ……ごめんでござる、みお殿……」



 やっとまともに呼吸ができたのか、息を荒げる葵ちゃん。


 後ろを振り向いても、もう名取くんの姿はなかった。



「あ……名取殿……いなくなっちゃったでござる……。せっ、拙者のせいで……っ」


「葵ちゃん」


「……?」



 わたしはキリッと眉を上げて、親指を立てて見せた。



「わたしの名取センサーを、見くびらないでほしいね!」


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