名取くん、気付いてないんですか?
いたーー!!
「あっ、みっちゃん」
リサちゃんがいたー!
いや、嬉しいけどそうじゃない!
綿あめをもふもふと食べるリサちゃんの隣には、約束通り相澤くん。ピンクの花柄の浴衣を着たリサちゃんに合わせるように、落ち着いた色の甚平を着ていた。
うーわ、こんなの完全にカップルじゃん。いくらつき合ってないって言い張られても、つき合ってるようにしか見えないやつじゃん。それで、クラスのウェイ系の人にからかわれるやつ。少女漫画で何万回も見たわ。
あーダメダメ。嫉妬してる場合じゃない。
「リサちゃん、名取くんか和久津くん見てない!?」
「みお殿!? 名取センサーとは!?」
「ごめん葵ちゃん! ちょっと見栄張った……っ!」
くっ、と涙を呑む。葵ちゃんには悪いことをしてしまったけど、悪いとはそんなに思っていない。
どうやらわたしの名取センサーは夏祭りでふわふわと浮かれてしまって、正常に判断できないようになったらしい。どうりでさっきからずっとテンションが高くいられるわけだ。
リサちゃんは口の周りのベタベタをペロリと可愛く舐めて、見てないよ、と一度だけ言った。そしてまた、新たな屋台を巡るのだ。
相変わらずだね……リサちゃん。隣に意中の男の子がいたって、お構いなしか。でも、そういうところがリサちゃんのいいところで可愛いところなんだよね。
ぐいぐいと袖口を引っ張られた相澤くんは困り顔ながらも嬉しそうで、なんていうか……デレデレだった。
「……あ。そういえば、裕也なら向こうで焼きそば買ってたのを見たような……」
「ほんと!?」
どんどん遠ざかっていく相澤くん。だけど情報だけは聞き逃さないようにしないと!
「うん、だけど、大和はいなかっ……」
「ありがとー! 行ってみるー! 葵ちゃん、レッツゴー!」
「ごっ、ござるっ!」
わたしは迷わず、相澤くんが指を指してくれた方向へ駆けだした。駆け出すといっても、さすがに浴衣姿じゃ限度があるんだけど。
横に付いてくれる葵ちゃんは私服で、さらにちゃんとスニーカーなので、まったく歩きづらそうな様子はなかった。さっきの経験で、人に潰されないよう周囲を警戒してるみたいだし。
ま、まずいな。ここでわたしが先にリタイアしちゃうのは非常に悪い。それもこれも、全て和久津くんと待ち合わせをしなかったわたしが悪い。
でもここで、諦めてしまうのは……わたしの、名取くん愛が邪魔をする!
「わっ!」
どんっ、と誰かにぶつかる。軽く受け止めてもらえたから痛みはないものの、もし怒られたりしたらどうしよう……。
「すっ、すみませ……っ」
下を向いたままじゃ余計に反感を買うかもしれないと思い、顔を上げる。
ふわりと香る、ぶつかった人の香り。
あれ……この匂い……。
わたし、知ってる――
「……あっ!」
「……あっ、あ……朝霧さん!?」
名取くんだ!!
やっと、捕まえた!
名取センサーが犠牲になった代わりに、わたしの名取コネクトが発動したんだ! ありがとう名取コネクト! わたしと名取くんを引き寄せてくれて!
やったー! 目標達成ー!
「大和、止まると危ない……あ、朝霧」
そこへ和久津くんも合流して、結局は予定通りのメンバーが集まった。
ま、終わりよければ全てよし!