名取くん、気付いてないんですか?
和久津くんの誘導で、わたしと葵ちゃんは無事に一緒に夏祭りを楽しむメンバーに加わることができた。
名取くんは、未だ気まずそうな表情だけど。和久津くんと葵ちゃんはそのことを知らないから、必死に今まで通りを取り繕うとしている。
わたしはそれをわかった上で、図々しくも名取くんの隣へ立ったのだった。
積極的に行くって決めたしね!
「えーっと……朝霧さんたちも、来てたんだね」
「うん! うちの学校の人たちは、ほとんど来てるんじゃないかなぁ」
「そ……そうだね」
最近はずっと逃げてた手前、罪悪感からか無視することもしないみたいだ。まぁ、名取くんがそんな人なのは知ってたし、仮に無視されたとしてもわたしから話しかけられるように心の準備はしてきたんだけどね。
本当、変わったなぁ……わたし。
初めは、すぐ顔が赤くなっちゃって、会話どころじゃなかったもんね。
だからといって今が、いい関係とは言えないけど。ここまで気まずい関係になるなんて思ってなかった。うーんでも、気まずいと思ってるのは名取くんだけのような……?
わたしはもう、今日勝負を決めてやろうと思う。
ここから名取くんが逃げることは難しいから、こっそりと二人きりになってやる。
「花火まで、まだ時間あるな」
和久津くんが、腕時計を見ながらそう言っていた。
わたしも一応スマホを巾着から取り出して確認する。八時ちょっと過ぎだった。花火が始まるのは九時からだ。
するとわたしがスマホを見ていることに気づいた和久津くんが「あ」と声を漏らしてわたしの腕を掴む。
突然掴まれたので、思わず体が強張った。
「え、なに?」
びっくりした……。
「いや……ちょっと、番号交換しておこうぜ」
「あぁ……そうだね」
だからといって掴むことはないと思うけど。
わたしは手早に終わらせて和久津くんの名前を登録すると、すぐにさっきの位置へ戻る。隣で名取くんが、なんともいえないような表情でわたしを見下ろしていた。
「ん? どうしたの、名取くん」
「……あ。ああ、いや……そんな早く戻ってくるとは……」
言葉の後ろに行くにあたって声がしぼんでいくので、残念ながら最後の方の言葉は聞き取れなかったけど。
でも――少し、名取くんの頬は赤い気がした。
なんだかよくわからないけど、良い雰囲気だよね、今!