名取くん、気付いてないんですか?


「名取くんは、もうごはん食べた?」


「あ……う、うん、食べたよ。今から、花火を見る場所を探しておこうって、裕也と話してたんだけど……」


「えっ、今から?」


「うん、立ちながら見るのは、疲れるだろうからって」



 なんか……久しぶりに名取くんと会話できてる気がする……。じーん、胸にしみるよ……。


 っていうか今の話だと、和久津くん、わたしたちと合流する気なくない? 完全に名取くんと二人で花火見て、帰る予定だったでしょ。


 ふぅー危なかった。わたしの名取センサーと名取コネクトがなかったら、まんまと和久津くんの罠にはまるところだった。


 ……いや、でも、連絡先を交換しておこうとするってことは、意思はあったってことなのかな。ありえる。わたしが言うのもなんだけど、和久津くん、馬鹿だからなぁ。



「あっ、拙者りんご飴食べたいでござる。ちょっと買ってくるでござるよー!」


「ちょっ、馬鹿、葵! おまえ絶対はぐれるだろ!?」



 すれ違うカップルに、少し嫉妬する。


 もし、もうこの夏祭りでわたしと名取くんが恋人になれていたなら、あんな風にくっつけたのに。少し近づけば簡単に触れることができるのに、それができないのがなんとももどかしい。


 これが、もし両片想いってやつだったならば、手と手が触れ合い、夏祭りで浮かれてることもあってぎゅっと握りあい、幸せそうな笑みを浮かべることが可能なのに……。


 一度振られてしまっているわたしだと、そこらへんは慎重にならないといけないよね。拒絶されたときのことを考えたら、ショックで逃げ出したくなるよね。


 でも、今日は鋼メンタルで来たから! 完璧に、誰がどうみたって嫌がられてるとわかるまでは、諦めるつもりはないから!



「……さん、朝霧さん!」


「――はっ!!」



 しまった! 真横にはリアル名取くんがいるっていうのに、ついわたしと名取くんのラブラブ妄想に浸ってしまった!


 すぐさま名取くんの方を向いて……わたしを覗き込む名取くん……近っ!! あまりの顔の近さに、わたしと名取くんは顔を赤くして逸らし合った。


 や、やった(ガッツポーズ)! ラッキーハプニング!



「ご、ごめんっ! ど、どうしたの?」


「あっ、う、うん! あの、後ろ……」



 後ろ? 後ろなら、葵ちゃんと和久津くんが付いてきて……。


 後ろを向く。二人はいない。


 ……えっ!? いない!?



「は、はぐれちゃったみたい……だね」



 名取くんが困ったように笑う。


 わたしは――思わず喜びが顔にでないように、必死に堪えていた。


 こ、これって……二人きりになれたってこと!?


 神様葵さま和久津さま、ありがとーー!!

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