名取くん、気付いてないんですか?
ぽかんと口を開けて、静止する名取くん。
あれ? もしかして、キャパオーバー?
顔の前で手を振ってみる。名取くんと繋がっている方の手はまだがっちりと掴まれているので、意識があることは確認できた。
そして、振っていた方の腕も掴んだと思ったら……
「そっ……っ、そんなわけ、ないからね!?」
と、顔が真っ赤の説得力ゼロな反抗をされてしまった。
もう! いい加減……認めなよ!
「名取くんは、わたしのことが好きだっていう事実を認めたくないだけなの! 名取くんはわたしのことが好きなんだよ! そして、わたしも名取くんが好き! はい、相思相愛!!」
「俺自身が好きじゃないっていってるのに、どうして勝手に決めるの! 意識することなんて、好きじゃなくてもできることだよね!? 朝霧さんは、早く俺のことを諦めた方がいいって言ってるの! はい、論破!」
「はぁ!? なんでそんなこと言われなきゃいけないのかな!? 別にわたしが名取くんのこと好きでも、名取くんは嬉しいんでしょ? だったらそれでいいよね!?」
「俺は、もっと朝霧さんに自分を大切にしてもらいたいの!」
――――なにそれ!!
カッと頭に血が上る。
なにその、まるでわたしが名取くん以外でも幸せになれるみたいな言い方! 実際、そういう意味なんだろうけど、自分のことが好きだって言ってる人に言うことじゃないと思う!
確かに時間が経てば、わたしは名取くんじゃなくてもいいと思う日が来るかもしれない。でも、そういうことじゃないよね? 今は、名取くんじゃないといけないって言ってるの!
ああもう! ムカつくムカつく! 早くわたしのことが好きって言えばいいのに! それで、全然解決するのに!
わたしはこんなに、名取くんのことが好きなのに!
「じゃあ名取くんは、わたしが他の人と付き合ってもいいと思ってるんだ?」
「もちろん。俺みたいに、中途半端な気持ちじゃない人なら」
「ふーん……。わたしがそんな人と楽しそうにしてるのを見て、なんとも思わないの?」
「……えっ」
「少しでも、嫌な気持ちにならない? ねぇ、想像して」
「……」
名取くんは考え込む。
……ほら、即答できないんじゃん。それって、少しでも嫌だったって証拠だよね?
「でも……やっぱり……」
まだ、名取くんは認めようとしない。
ここまで粘って粘って、辛抱してきたけど。もう、限界だ。名取くんは、相当な頑固者だった。わたしの手には負えない。
せっかく諦めないって決めたのに。
いや、別に、今も諦める気はないけどさ。
「もういい!」
わたしがしびれを切らして、名取くんの両手を振りほどく。名取くんは名残惜しそうに唇を結びつつ、この討論から解放されたことにほっと胸をなで下ろしていた。