名取くん、気付いてないんですか?
なーんか、わたしの想像してた両片想いとかけ離れてるな。
ていうか、好きなのを認めないって――もう名取くんからの好意は勝手に確定することにした――どういう心境なの?
中途半端って、何? 真面目すぎるんだよ名取くんは。気になる子に告白されたから付き合う、でいいんだよ。世の中はそんなのばっかだって。
ちらりとスマホで時刻を見る。かなりの間喧嘩していたみたいで、二十分近く経っていた。
こんな時間も、名取くんがさっさと素直になりさえすれば、葵ちゃんと和久津くんを探す時間や、花火を見る場所を確保する時間の足しになったかもしれないのに。
なんて、今更どうこう言っても仕方ないか。
「でもまぁ……わたしもちょっと、急かしすぎたかもしれないから、ごめん。その、どうする? 二人を探す?」
「あ、いや、俺も、ちょっと感情的になって……ごめん。えっと、とりあえず、もう一回裕也に電話かけてみるよ」
「わたしも、葵ちゃんにかけるね」
あーあ。大丈夫かな。冷静になると、なんでこんなに怒ったんだろうって思う。名取くん、幻滅してないかな。
逆にわたしは、名取くんが少しでも素の自分を出してくれたことに嬉しいって感じてしまってるんだけど……名取くんも、同じ気持ちかな。やっぱり、男の子は儚い女の子の方が好きなのかな。
いつだったか名取くんは、わたしを愛鉢の八重ちゃんに似てるって言ってくれた。たぶんそれって、表のわたしに対して言ってくれたんだよね。八重ちゃんは決して感情論で怒ったりしない、優しい子だ。
でもさ……だって。もう少しだったんだもん。もう少しで、名取くんの気持ちは完全にこっちに向くって、思ったんだもん。
『……あ、みお殿?』
そのとき、葵ちゃんが電話に出た。
「葵ちゃん? 今どこ?」
『えーっと、あっ、今から外に出るでござる! そこで合流でいいでござるか?』
「うん、わかった」
『ではまた後で! ちょっと、師匠!? 足が速いでござ――』
電話が切れる。
名取くんを見ると、そっちも通話は終わっていて、どちらかともなく歩き出す。
そして、そのとき……名取くんが、呟いた言葉は。
「俺は……なんでそんなに朝霧さんが俺にこだわるのか、わからないよ」
今までのどの言葉より、深くわたしに突き刺さっていった。