名取くん、気付いてないんですか?
花火で声は聞こえなかったけど、和久津くん……『すきだ』って、言った?
わたしだってそこまで鈍感なつもりはない。正直言うと、そうかなって感じたときはあった。
でもまさかって。
和久津くんみたいにイケメンなら、わざわざわたしじゃなくてもいいはずだって。
そう、思ってたんだけど……。
「……」
「……」
「……あの、名取くん?」
花火の音が遠くなったところで、わたしは名取くんに話しかける。
名取くんは振り向かない。
二人っきり。背景には大きくて綺麗な花火。
望んでいたシチュエーションのはずなのに。
もしかして名取くん、怒ってる? それだったら……名取くんに怒る権利なんてないはずだ。
名取くんはわたしを振った。一度のみならず、何回も。自分じゃ駄目だからって、わたしを傷つけた。
それなのに。
和久津くんとわたしを見て、怒った。そういうことだよね。
それって、
「……勝手すぎるよ、名取くん」
頑固で。自分勝手で。
名取くんが何をしたいのか、よくわからない。
「わたし、もしあれが本当に告白だったら、和久津くんにちゃんと返事するよ」
「……」
「わたしはもう名取くんには振られちゃってるから、わたしと和久津くん、付き合っちゃうかもしれないよ」
「……」
「いいの?」
「……っ」
「ねぇ、わたしが名取くんを好きなのは変わらないけど……わたしは、名取くんのものではないよ」
「……それは」
「ずっと振り回され続けるのは嫌だよ……」
いい加減はっきりして。
まだ繋がっていた手を、するりと離す名取くん。
「俺だって……びっくりしてて」
「えっ?」
「ほんとに、本気で、言ってたんだ。俺じゃない方がいいって。裕也の方が、朝霧さんにも良いと思う。………だけど」
名取くんの後ろ姿。耳が、真っ赤だった。
ドキドキと、わたしの鼓動が速まる。