名取くん、気付いてないんですか?
こ、これは……今度こそ……!? あー、ダメダメ! あんまり期待したら、裏切られるって散々学習したでしょ!
んー。でもまあ、いっか。これも全部、名取くんが悪いってことで。
「俺……まさか本当に……朝霧さんのことっ……えっと。なの、かなぁ……」
振り向いた名取くんは真っ赤だった。目元を少し潤ませて、困った表情でわたしを見つめる。
そうだよ! ――っていいたいところだけど、このまま黙ってたら、言ってくれるかなぁ。それとも、欲張りはいけないのかな。
みおはもう、その決断さえも考えられない人間になってしまいました。あーあ、名取くんのせいですね。これは仕方ないです。
「朝霧さんを、裕也に取られたくないって、そう……思っちゃったんだ、よね……たぶん」
ここまで辛抱してあげるのも、わたしだけだよ、名取くん。そうそう、もっと自覚していって。
もう、引き返させないから。全力で引っ張ってやる!
「名取くん。わたし、名取くんが好き。――名取くんは?」
この雰囲気で、やっぱり無理ですなんて、それこそ無理です。
「………………す」
す?
「………っ、うぅ……」
名取くんがくしゃっと、胸の辺りに手を置いて、服を掴む。
渋ってるのかな。緊張してるのかな。
「………す、す」
うーん、まったく、しょうがないなぁ。
ここはわたしが、名取くんを誘導してあげよう!
「名取くん、首の長い動物といえば?」
「……? き、キリン?」
「ん、よくできました!」
答えを言った後も、名取くんは疑問符を飛ばして首を傾けていた。
でも、悩んだ末にその意味を理解した瞬間。
「……! あ、朝霧さん!」
納得がいかなかったようで、もう一度やり直そうとする。
まあでも……。
「す! す、す……っ、す―――きりん!」
うん、まだ、名取くんには無理だよね。
少しずつ、言えていけばいいな。
「へへっ、うん、わたしも……すきりん!」
「うぅ……ああぁ……ごめん」
頭を抱えてうなる名取くん。
可愛い。そんなところも好きだよ。
もう一度、手をつなぎ直す。ぎこちなく触れる指先に、わたしはもう少し先に進みたくて、指の位置を組み替えたのだった。
所謂、恋人つなぎってやつだ。
頬が緩む。
今までだったら確実に隠そうとしていたことだけど、これからは存分に、余すことなく名取くんに見せつけてやろうと思う。