名取くん、気付いてないんですか?
大団円にはならないんですか?
夏休みも中盤に入ったある日。家で宿題をしていたら、和久津くんから電話がかかってきた。着信が来て勢いよく携帯を取ったところ、名取くんじゃないことに舌打ちしつつ、何のようかと電話に出た。
なんだろう。ていうか、あれからわたしちゃんと和久津くんに返事してない……いや、そもそも、あれが本当に告白だったのかも微妙だし……。も、もしかして、この電話で何か言ってくるんじゃ……。
「もしも――」
『寿司屋だから』
「はい?」
被せ気味に話してくる和久津くんの声は、少し焦っているようだった。
す、寿司屋……? えーと、掛け間違えてるのかな? わたしは朝霧みおですけど。
『あのときは腹が減ってただけで、たまたま身近なおまえに訴えただけだから。寿司が食べたかっただけだから』
「え、え、えと、とりあえず落ち着いて、和久津くん」
早口でまくし立ててくる和久津くんに困惑しつつ、制止させる。どういうわけか、妙な緊張感が漂ってしまった。
止めたところだけど、わたしはついつい言葉が詰まる。どう言っていいものか、なにを言えばいいのか……。
『……あのさ』
和久津くんからまた話し出した。耳元で和久津くんの低い声が反響して、少しスマホを耳から離す。
『――――……おめでと』
たった一言だけ。
そう言うと、和久津くんは電話を切ってしまった。
わたしの部屋はしんと静まる。ただ、わたしの胸に小さなわだかまりを残したまま。だから、すかさず和久津くんの電話帳を開いて、メールを作成し始めた。
『ありがとう』
それだけが言いたくて。