名取くん、気付いてないんですか?


※ ※ ※

 
 パァン! と破裂音がした。


 その破裂の出現場所は……リサちゃんの手の中だ。


 いつもならリサちゃんを叱咤するところだけど、今日のドジはジャンルが少し違うようだった。というか、リサちゃんの手の中で何かが破裂するなんて、叱咤どころの騒ぎじゃないしね……。



「みっちゃん、おめでと~!」



 笑顔のリサちゃん。


 そして、かすかに火薬の香りがしつつ、リサちゃんの手から紙テープが飛んできたことでわたしは確信した。


 お祝いしてくれようとしてるのはわかる! わかるけど!



「誰!? リサちゃんにクラッカーを持たせたのは!!」



 危なさの塊じゃん!!


 といってもこの空間はリサちゃんの部屋。遊びに来たわたしとリサちゃんの二人きりなので、そりゃあもうリサちゃん自ら持ったとしか思えない……。



「相澤くんが買いに行くの付いてきてくれたよ」


「おのれ相澤ァ~~~!!!!」



 最近の相澤くんは、わたしを怒らせてばかりだと思いますね!


 おまけに最近の相澤は、調子に乗っている! (乗ってもいい立場ではあるけど)それは大変不本意!! リサちゃんをどんどんわたしから離そうとしてくるよ! きぃ~~!


 そうやって唇を噛んでいると、リサちゃんは眉を下げながら首をこてんと傾ける。



「う~ん、みっちゃんは、ちょっと過保護すぎだよ~」


「エッ」



 まさか、リサちゃんから指摘を受ける日が来ると思っていなかったわたしは、フリーズした。


 えっ、あれ? おかしいな。前までわたしがこんな態度を取ってても、リサちゃんはなにも言わないどころか、少し嬉しそうな気もしていたと記憶してるんだけど。


 はっ、まさか、これも相澤か!? 相澤の影響なのか!? おのれ許さんぞ相澤! この台詞何度目だ!? 何度言わせることをするんだ相澤!



「みっちゃんがそんなんじゃ、いつまで経っても殿堂入りできないよ~」



 あっ、これ、相澤くんが可哀想なやつだ! うーん、この二人はいつまでもこんなやりとりしてそうだなぁ。わたしも時期を見計らって、大人しく殿堂入りしてあげよう……今更だけど殿堂入りってなんだろうね。



「みっちゃん、そんなことより」



 そんなことだってよ相澤。


 リサちゃんは今まで気付いてははいたけどなかなか言い出せなかった、折りたたみ机にふわりとかけられた布を勢いよくはぎ取り、どう見ても不自然だった膨らみを露わにさせた。



「じゃ~ん! お祝いに、昨日お母さんとケーキ焼いたんだ~! 二人で食べよう! 名取くんにおすそ分けしてもいいよ~!」



 箱を開けるリサちゃん。そこに現れたのは、なんともまともなショートケーキ。ホールである。


 クラッカーの次はケーキ作りだと!? 目立つような手の傷も少ないし、り、リサちゃん、明らかに成長している……! 自立し始めているよ……!


 これは、わたしが殿堂入りするのもそう遠くないのかも! それはそうと殿堂入りってなに。

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