名取くん、気付いてないんですか?
……八月、三十一日。
いやぁ~、夏休みも終盤となりましましたねぇ~。楽しかった思い出がふわふわ浮かんできますわ~。あっ、きれいな川~。この川の名前はなんて言うんですか? あっ、へぇ、三途の川かぁ~。
いやぁ~、困った困った。
「朝霧さん、ここのスペル間違えてる。そのままにしようとしないでね」
――――ちと宿題が終わらなくてな……。
おっかしいなぁ? わたし、ちゃんとちょこちょこ宿題はやってたはずなんだけどなぁ? そういう描写も入ってたはずなんだけどなぁ? おかしいなぁ?
あぁ、それにしても昨日は楽しかったなぁ! リサちゃんと葵ちゃんの三人でショッピングモールに行って、買い物して、クレープ食べて~。あ、今度名取くんと一緒に行きたいなぁ。それで、昨日とは違う種類のクレープ食べたい!
えへ、えへへ~。それ絶対楽しいよ~。いつ誘おうかなぁ。新学期入ってからかなぁ。えっ、新学期? なにそれ? まだ夏休みはあるんだし、いつでも誘えるよね。
「朝霧さん、現実逃避しないで早くやって。裕也は……あと作文だけ? あぁうん、これは……」
いやぁ~。
相澤先生が帰してくれない。助けて。【急募】相澤駆除をお願いします。
始まりは、昨日わたしに送られたある一通のメールだった。
差出人は名取くん。その瞬間わたしの胸はドギーンと高まり、メールを開く手が震えたのを覚えている。
そして、開いた途端、その震えが別の意味になるのも……。
その内容は、こちら。はい、どん。
『夏休みの宿題終わってない人は、明日の朝9時、駅前に集合。 相澤聡
だって、朝霧さん……。終わってる、よね……?』
わたしはいつから、相澤という名前を見ただけで震え上がる女になっていたのだろう。そのあとに追い討ちをかける、名取くんの心配そうな文面。思わず胸を押さえた。
……もちろん、宿題なんて終わってはいませんでしたとさ。終わってないことを予想した相澤くんには頭が上がらないでやんす。ざまーみろとか思ってて申し訳ありませんでしたで候。
でも、幸いだったのが駅に集まったのがわたしと付き添いで来てくれた名取くんだけじゃなくって……和久津くんと、付き添いの葵ちゃんがいたってことだった。二人とも付き添い連れてくるとか、思考回路同じかよ。