名取くん、気付いてないんですか?


 駅前では爽やかな笑顔を振りまく相澤くんがいて、電車に乗るのかと思いきや強引に連れてこられた先は相澤くん家の無駄にテカテカペカペカした車の前で、運転席には相澤くんの両親じゃないおじいさんがいて……。着いたのはでかい家。


 つまり、金持ちに誘拐されたってことですね、わたしたち。


 なんとなく予想はしてたけど! 育ちはよさそうだけど! 持ってくるお弁当はいつも冷凍食品なんてひとつも入ってなかったけどさ! 使用人までいるとは、誰も予想しないじゃんねー!?


 それだけじゃない、それだけじゃないんだよこの男は! ドアを開けたらね、人が立ってたの。お母さんかなー? って覗いたらね、なんとね。



「あ、みっちゃ~ん。待ってたよ~」



 リサちゃんだったの。


 彼女でもない女! 家に! 連れて! 来とるー!


 って、なったよね。実際、叫んだよね。


 結局、いつもと同じメンバーじゃねぇか。ってな、はは……。うん、宿題やりますね。



「あーあ! 相澤くん家じゃなくて、名取くん家がよかったなぁーーーーー!?」



 ちらちらと相澤くんを見ながら愚痴ると、相澤くんはにこりと笑って、こう言ったのでした。



「じゃあさっさと宿題終わらせて、大和の家に行って来れば解決だね」


「よっしゃマッハで終わらせるーー! 名取くんとイチャイチャするーーー!」


「イチャ……!? 朝霧さん!? そんな勝手に、部屋片づけてないし!」



 顔を赤くする名取くんは、わたしのやる気の源だね!


 隣では、葵ちゃんが和久津くんを応援していた。



「がんばれがんばれ和久津! 後は今までの文章をまとめるだけでござるよー!」


「ぼくは、このことをむねにきざんで、はなさないように、これからもいきていこうとおもいます……そう、ぼくがちきゅうからはなれられないように」


「なんでそんなに壮大でござるか和久津!?」



 ――あれ? 葵ちゃんが和久津くんのことを『師匠』って呼ばなくなったのは、なにか意味があるのかな?



 ……その後、相澤くんの家庭教師により、宿題は無事に終わったとさ。名取くんの家にも行けました!


 でも……なんだこれ。相澤くんの金持ち自慢だったのかな? やっぱりいけ好かない。頭は上がらないけど。




 平凡な毎日。


 楽しい日常。


 それに、ちょっとした進展があったりもして。


 私たちの夏休みは、ちょっぴり(かなり)宿題に追われながらも、終わったのだった――。

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