戦乱恋譚

『伊織!』


「!」


朧との戦闘の合間に、自身の刀を伊織に投げ渡した千鶴。素早く鞘から刀を抜いた伊織は、襲いかかる佐助の苦無を受け止めた。


ガキン!


耳をつんざくような鋼の音。目の前で繰り広げられる戦いに、震えが止まらない。

伊織は、読みの速さで佐助に応戦するが、少年の素早さは群を抜いている。

佐助の苦無を刀で弾いた伊織は、そのまま体を反転させ、少年の腹部を重く蹴り込んだ。

ドッ!という鈍い音とともに、神社を囲む森へ飛ばされる佐助。少年の体は木の幹に体を打ち付けられ、地面に沈む。


「佐助!」


綾人が血相を変えて声をあげた。

ダメージを負った佐助はそんな主を見てわずかに目を細めるが、すぐにむくりと立ち上がり、再び伊織にその刃を向ける。


(…!)


佐助は、綾人を十二代目から守るために戦っているのだ。佐助が負ければ、月派での綾人の立場が悪くなる。それを一番よく分かっているからこそ、少年は足を止めない。


キン!キン!


刃の交わる音が境内に響いた。素早い連撃を繰り出す佐助だが、伊織は全ての流れを見極めかわしていく。


(…相手が神さまとはいえ、伊織も負けてない。何とかして、佐助の苦無を弾き飛ばすことができたら…!)


…と、その時だった。


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