戦乱恋譚

ザシュッ…!


「「『!!』」」


飛び散る鮮血。

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

佐助を貫くようにして伊織を刺した“漆黒の槍”。

伊織が顔を歪めた瞬間、境内に低い声が響き渡る。


「…最後の最後で、役に立ったじゃないか。お前はもう“用済み”だ、佐助。」


(!!)


冷酷な笑みを浮かべる十二代目。彼の放った霊力の槍が、その言葉とともにパァン!と消え去った。


───ザァッ…!


佐助の体が、砂のようにさらさらと崩れ、消えていく。槍に貫かれたのは、“手裏剣の依り代”だった。

絶句して立ちすくむ綾人。

消え去る寸前の佐助が、わずかに唇を動かす。


『…あや、と…さま……』


「!」


一粒の涙が少年の頬を伝った刹那、佐助の姿はどこにもなかった。“家族”が、浄化の光もなく消え去る光景に、綾人は瞳の光を失う。


「…か、は…っ…」


伊織が、小さくうめき声を上げた。彼の着物に広がる赤い染み。そしてそのまま、脇腹を抑えた伊織はドサッ…!と地面に倒れ込む。


「っ!伊織!!!!」


私の声に、彼は反応しなかった。

血の気が引いた。恐怖と動揺で、指の感覚さえない。
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