戦乱恋譚


「はっはっは!!これで陽派は終わりだ!顕現録は、二度とお前らが使えんように月派の屋敷に封印してやる!…そして、来たるべき満月の夜、私は神城の屋敷に攻め入り、今度こそ陽派を根絶やしにしてやろう。十年前の、あの夜のようにな…!!」


十二代目は、目的を果たしたように、ばさり、と顕現録を手にしたまま姿を消した。

攻撃をやめた朧も、主の後を追うようにして、空気に溶け込み、その場を去る。

残された陽派と綾人は、未だに起こった事態を受け止めきれずに立ち尽くしていた。

降り続く雨は、伊織の体温を奪っていく。

流れ出る血を見た瞬間、私は無意識に叫んでいた。


「…!早く、血を止めなきゃ…!雨に打たれたら、止血できない!」


私の言葉に、千鶴がはっ!とした。素早く空から舞い降り、伊織を抱き抱える千鶴。その白い着物が、伊織の血で染まっていく。


「伊織!伊織!!!」


私の呼ぶ声に、彼は目を閉じたまま答えなかった。


『屋敷に戻るぞ。俺に近づけ…!』


冷静な花一匁の声が聞こえた。霊力を解放する彼が、私たちを光で包む。

…そして、花一匁の桜色の瞳が輝き、体がふわり、と浮いた瞬間。境内に見えたのは、希望を失った瞳でただ立ち尽くす綾人の姿だった。

どくん、と胸が低い音を立てたその時。私たちの体は光の中に消え去ったのだった。


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