戦乱恋譚


───それから、私は花一匁の霊力で屋敷に帰った。

千鶴に抱えられた重症の伊織を見て、咲夜さんも使用人の人々も血相を変え、屋敷は騒然とした。

すぐに医務室に運ばれ、銀次さんによって治療を受ける伊織。私も銀次さんの助手として伊織の看護に当たった。幸い、傷の縫合が上手くいき一命はとりとめたものの、彼は三日三晩と眠り続け、意識が戻らない。

その間、血だらけの着物を纏った千鶴は、ずっと医務室の前に固い表情のまま座り込んでいた。


**


「……華さま!伊織殿の意識が戻りましたぞ!」


銀次さんからそんな知らせを受けたのは、四日目の早朝。

連日連夜の看護の合間に番所で仮眠を取っていた私は、その声に飛び起き、医務室に向かった。

ガラリ、と引き戸を開けると、木製のベッドに横になる彼の白銅の瞳と目があう。


「伊織…!!」


すぐさま駆け寄り、手を握った。彼の指からは微かに心臓の鼓動が聞こえ、じんわりと温かい。


(生きてる……。伊織が、ここにいる……)


「…華さん…」


彼の声を聞いた瞬間。がくん!と体の力が抜けた。へなへなと床に座り込むと、伊織はいつもの穏やかな笑みで口を開く。


「…ご心配をおかけしました。もう、傷も塞がったようです。」


伊織が受けた攻撃は、奇しくも佐助が間に入ったことにより急所を外れていた。出血よりも浅い傷だったことに安堵する。


< 109 / 177 >

この作品をシェア

pagetop