戦乱恋譚

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伊織の意識が戻り、三日が経った。

咲夜さんは、明日の決戦に向けて式神を呼び出す和紙と陣の用意に追われ、銀次さんも患者をすぐに運び込めるよう、医務室の道具の補充をしている。

そんな中、一人で夕食を食べ終えた私は、自室に向かって廊下を歩いていた。使用人がいない屋敷は、がらん、としていて、私が来た頃のような活気はない。

冷たい空気が、“嵐の前の静けさ”のように感じる。


(…あ。)


空を見上げると、そこには大きな月が輝いていた。形は、ほぼ満ちていて、明日には綺麗な満月になるだろう。

…と、その時。ふと、縁側に腰掛ける千鶴の姿が見えた。真っ白な和服が月明りに照らされている。


「…千鶴。」


『…!…姫さんか。』


どこか元気のない彼は、ちらり、と私を一瞥し、再び庭へと視線を移す。綺麗な白い肌は、いつもより赤みがないようだ。


「…ひどい隈(くま)だよ。寝てないの?」


『…姫さんもな。美人が台無しだぜ?』


誤魔化すようにそう言った彼だが、やがて、ふっ、と真剣な表情で、ぽつり、と呟いた。


『…強くなりたい。』


「!」


『朧を、霊力だけで圧倒するくらいに。』

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