戦乱恋譚
私は、その横顔を黙って見つめていた。ゆっくりと彼の隣に腰掛けると、千鶴は静かに語り出す。
『…伊織が刺されたあの日から、自分の無力さだけが頭に残るんだ。虎太も、光の壁を砕かれて塞ぎ込んでる。』
彼の深紅の瞳が、弱々しく揺れた。
…千鶴によれば、朧は花一匁と同じ格の折り神らしい。
星が一つ違うだけで、あれほどの霊力の差が生まれるのか。千鶴と虎太くんの苦しみを聞き、依り代を折って呼び出した身として、やりきれなくなる。
その時、ふと、千鶴が何かを思い出したように続けた。
『姫さんは、“重ね”を知ってるか?』
「“重ね”?」
『あぁ。特定の折り神だけができると言われる“強化”のことだ。同じ型の依り代を新たに作り、さらに難しい工程を加えることで、格を上げることが出来る。』
(そんなことが出来るんだ…!レベルアップみたいなもの…?)
千鶴は、焦りを滲ませて私に尋ねる。
『なぁ。鶴には、別の折り方はねぇのかよ?姫さん、何か知ってたりしないか?』
「…!」
私は、っ、と息を呑んだ。そんなことを聞かれても、鶴は普通の鶴しか分からない。思い浮かぶのは“千羽鶴”くらいだが、形はほぼ一緒だ。数が多ければいいというわけではないだろう。