戦乱恋譚
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「…はぁ、はぁ、はぁ…」
上がる息の中、おぼろげに覚えている道をひたすら走る。行く手を照らす月明かりは心もとなく、ざわざわと揺れる夜の風が冷たい。
しかし、恐怖心など私にはなかった。頭の中には、伊織のことだけ。
タン、タン、タン
神社の石段を駆け上がる。そして真っ赤な鳥居をくぐると、そこには大きなお社があった。
───ザァッ…
亜麻色の髪が、風になびいていた。見慣れた着物は、“彼”のものだ。
「…っ。」
その背中に、思わず駆け寄る。足音に気づいた彼がこちらを振り向いた瞬間、私は、迷わず彼を抱きしめた。
ぎゅうっ……!
「!」
強張る彼の体。しかし、じんわりとお互いの体温を感じるうちに、力が抜けていく。
「華さん…?」
頭上から、戸惑ったような声が聞こえた。それを聞いた瞬間、私は抑えきれなくなったように告げる。
「一言も言わずにいなくなるなんて、何考えてるの…?!」
「!」
「そのまま、一人で月派に行っちゃったのかと思った……」
すると、ぎこちない伊織の腕が、私の背中に回った。優しく抱きしめ返され、はっ、とする。
「…すみません。でも、言ったら外出を反対されると思いまして。バレないうちに戻ろうかと…」
「もう、みんなにバレてるよ…!屋敷中大騒ぎだったんだから…!!」