戦乱恋譚
とくん…、とくん…、と伊織の心臓の音が聞こえる。彼と至近距離にいることを今更自覚した私は、赤くなる頰を闇夜に隠すように俯きながら彼から離れた。
伊織も、そっ、と私から手を離す。
「…俺を、探しに来てくれたんですか?」
「う、うん。…戦いに行く前は、必ず神社に行くって言ってたから。きっと、ここだろうなって思って…」
ぎこちなくそう答えると、伊織は微かに口角を上げた。優しげな視線に、どきり、とする。
いつもより明るい月が、彼の整った顔を照らした。
「…明日、ですね。」
「え…?」
「華さんが元の世界に帰る日です。」
どくん…!
彼から、そう切り出されるとは思わなかった。伊織の中では決定事項のようだ。この、仮初めの夫婦関係も、明日で終わる。
…私の心を知らない彼は、そう思っていた。
「あの、伊織。私、決めたの。」
「…?」
私をまっすぐ見つめた伊織。そんな彼から目を逸らさず、はっきりと言い放つ。
「私は満月の夜が来ても、元の世界には帰らない。」
「!」
「ずっと、伊織の側にいたい。」