戦乱恋譚


「伊織、待って!さっきのは、どういうこと?ちゃんと説明して!」


彼を追いかけ、離れに一歩入った。

ドン、と乱暴に扉を閉めると、ぴたり、と止まる伊織。

その時、ふと部屋の中が以前と違うことに気づく。

柱に貼られていた札や、勝利の験担ぎである骨董品やお守りの数々が全てなくなっていた。あるのは、机と、本棚と、布団だけ。

部屋の隅に置かれた行灯に、彼は火をつけようとしなかった。


「…たくさんあったお守りは、どうしたの…?」


「…全て、処分しました。」


初めて私に答えた彼は、数秒黙り込んで、ぽつり、と続ける。


「…あんなものがなくても、“華さん”が、俺の“生きる理由”になったから。」


(え…?)


すっ、と、伊織が振り向いた。窓から差し込む月明かりが、彼の表情を照らし出す。いつもの穏やかな彼とは違う、“男”の目をした伊織が、そこにいた。


「…言いましたよね。夜になったら、無防備にこの部屋に来るのは禁止だと。」


「…!」


すっ、と距離を詰め、流れるように腕を掴まれる。言葉を返す余裕もない。


「最後に、夫婦らしいことでもしてみますか?ここには貴方以外来れない。誰も邪魔は入りませんよ。」


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