戦乱恋譚
戸惑うように見上げると、ぐい、とそのまま腕を引かれた。ぐらっ、と傾く視界。真上に見える整った顔と目があって気づく。
私、いま押し倒されたんだ。
…するり。
絡まる指。重ねられた手は、ぎゅっ、と私を掴んで離さない。
「…っ、伊織、どうして……!」
小さな声で、やっとそう尋ねた瞬間。伊織は、微かにまつげを伏せて呟いた。
「……“残された時”が、惜しくなった。」
(え…)
切なすぎる声色。その言葉の真意をはかりかね、彼を見つめ返したその時。伊織が、息をする間も無く唇を重ねた。
「───んっ!」
押し込めていた感情が溢れ出すようなキス。求められ幸せなはずなのに、彼の心が見えない。
「…やっ…!い、伊織…っ!」
口づけの合間に必死で声を出すが、思わず流されそうになる。初めて重なった唇。彼のキスは、頭が真っ白になる程、気持ちいい。離れの床が、ギシリ、と軋んだ。二人の呼吸だけが響く。
…するり。
「!」
襟を割り開いた伊織の手。鎖骨をなぞる感覚に、ぞくり、とした。同時に、不安と混乱が押し寄せる。
“だめだ。こんなの、望んでない”
「…っん…っ!だめ……!!」
それでも、彼はやめない。彼の指が胸に触れかけた瞬間。無意識に、大きな声が出ていた。
「いや!」
「!」
ぴたり、と彼の動きが止まった。ぽろぽろと流れる涙。私の表情を見た伊織が、はっ、と目を見開く。