戦乱恋譚
どきり、と胸が鳴った。しかし、足を止める勇気はない。
「今さら、話せないよ。あんなに伊織とすれ違っちゃったんだもん。」
『!』
「…もう、いいの。」
…と、私の答えに千鶴がもどかしげに顔を歪めた
その時だった。
───ガシャン。
突然、大きな物音がした。
はっ!とした私たちは、急いで音のした方へと駆け出す。
そして、薄暗い町の角を曲がった瞬間。視界に飛び込んできたのは、傷だらけでボロボロになった青年の姿だった。
「あ、綾人?!!」
路上に倒れ込む彼を抱き起こした千鶴。青年は、紛れもなく月派の現当主、本条 綾人だった。
『どうしたんだよ、お前!一体何が…』
すると、ふっ、とまぶたを上げた彼は、けほけほ、と咳き込みながら答えた。
「…本条家を“勘当”されたんだよ。」
「『え!』」
「十二代目に逆らったら、このザマだ。…ったく、容赦ねぇ……」
痛々しい打撲痕をさする綾人。動揺しながら見つめていると、彼ははぁ、と息を吐いて語り出した。
「このままあの男の下にいたら、佐助が浮かばれねぇ。…やっと、目が覚めたんだ。あんな家、早く出ておけばよかった。」