戦乱恋譚
佐助の名前を聞き、言葉が詰まる。なんと声をかけていいか分からないでいると、綾人はそんな私の心中を察したのか、ふっ、と笑って口を開いた。
「…人を気にする余裕があんたにあるのか?伊織はどうした。今夜はデカい武力衝突の日だろ?」
彼の言葉に、つい戸惑った。躊躇しながらも、私は綾人の問いに答える。
「…私、今夜、元の世界に帰るの。」
「!」
「だから、屋敷には残らない。」
綾人が目を見開いた。信じられない、と言った表情で私を見上げる。
「伊織は、霊力のない状態で十二代目を迎え撃つって言うのか…?!無謀にも程がある!顕現録がなけりゃ、勝機はないだろ…!」
そんなこと、言われなくても分かっている。私が、辛い現実から逃げようとしている自覚もある。
だが、どうしていいのか答えが見つからない。伊織を助けようにも、顕現録は奪われてしまった。私ができる唯一の特技が、潰されたのだ。
もう、私がここに残っても、助けになれることなんてない。
「…伊織は、私に帰れって言ったの。戦渦に巻き込まないための優しさだと思うけど、それ以上に、私の気持ちは伊織の足を引っ張るから。…私がいたら、迷惑なんだよ。」
と、その時だった。