戦乱恋譚
“体温も低い。…いつもこんなに冷たいってわけじゃないよね?”
“…!いえ…、心配することではないですよ。顔色が悪いのも、夜だからそう見えるだけじゃないですか?”
私がこの世界に来たばかりの時、一人で戦地に赴いた彼。顔色が悪いことを指摘すると、歯切れが悪かった。
“…そうだ、伊織。体は、もう大丈夫なの?”
“え?”
“…ほら、銀次さんの言っていた病のこと。倒れてしまうほどの病気なら、放っておくと酷くなるんじゃないかと思って…”
“もちろん、完治しましたよ。…でなきゃ、一人で戦地には行けません。”
そう言って、いつもの笑顔で真実を隠した時も。
“この賑やかな光景を、目に焼き付けておきたいと思いまして。”
宴の時、遠い目でそう言っていた時も。
全部、私に悟らせないための嘘だったんだ。
昨夜の口づけの熱が蘇る。
“……“残された時”が、惜しくなった。”
ずっと、私に秘密を隠していた彼が、初めて言った。
その言葉は“元の世界に帰る私に残された時”でもあり、“この世に生きる伊織に残された時”でもあったんだ。
…今思えば、刺された日も、佐助との交戦中、急に動きが鈍った瞬間があった。あれも、病のせいだとしたら。
どくん!
震えが走った。今夜、またあの時のようなことが起こったら、今度こそ命はない。攻撃されて傷つくだけじゃなく、伊織はいつ倒れてもおかしくないんだ。