戦乱恋譚
今まで、ずっと隠し通してきた。これまでも、気づく者はいない。
そう思っていたのに。
“伊織、何だか顔色が悪いよ。”
指摘された時、心臓がはねた。
彼女は、元々、そういう職についていたため人を観察する癖がついていたからなのだろうか。
まさか、出会ってすぐの彼女に、バレそうになるとは。
完治したと嘘をついて、それからも彼女の質問をかわし続けた。
…このまま、やり過ごせると思っていた俺の心が揺れたのは、あの瞬間。
“…伊織。私の前では、陽派の当主じゃなくていいからね。”
“え?”
“私は、仮とはいえ、今は貴方の“妻”だから。”
“!”
“私の前では、気を遣ったりしないで、ただの“伊織”としていてくれればいいの。”
弱い俺を、認めてくれた。死ぬのが怖いと吐露した俺を、受け入れてくれた。
彼女と会って、部屋のお守りを捨てた。“死”への恐怖と戦う時、心の支えになっていたお守りなんて無くとも、彼女の元へ帰ろうと思うだけで力になった。
次第に、自分が彼女に惹かれていっていることに気がついた。飾らない、素直で真っ直ぐな彼女に惚れるのはごく、自然なことだ。