戦乱恋譚
だが、その気持ちはすぐに封じ込めた。本気になればきっと、辛いだけだと分かっていたから。
俺は、臆病だから。貴方に全てを言えなかった。
…なのに。
“私は、伊織のことが好きなんだよ…!”
“!”
“だから、伊織のことをもっと知りたくなったし、知ったら、もっと近づきたくなった。…お酒の勢いに任せて少し勇気出してみたり、ここまで貴方を追いかけてきたのだって、全部伊織が好きだから…!”
正直、すぐにでも彼女の手を取りたかった。そのまま抱きしめて、俺の気持ちも残された命の短さも、全て伝えてしまいたかった。
…でも、すぐに別れが来ると分かっていながら、彼女に応える資格は、俺にはない。
引き止めることも許されなかった。
彼女を置いて戦地に赴き“ただいま”を言える保証がない俺が、愛する人に出迎えてもらうことを望むなんて贅沢なんだ。