戦乱恋譚
さっ、と辺りを見回すと、血まみれになった咲夜が見えた。あれは返り血なのか、それすらも分からない。虎太の光の壁も、月派の手下を弾き返しながら蹴散らしているが、いつまで持つか。
「仲間を心配する余裕があるのか!!」
「っ!」
十二代目の槍が、肩を掠めた。
カラン…ッ!と手にしていた刀が手から滑り落ちる。
(しまった…!)
と、次の瞬間。
十二代目の槍が、振りかざされた。月光に冴える切っ先。研ぎ澄まされた刃が、ギラリと光った。
血の気が引く。避ける暇も、受け止める刀もない。
「終わりだ!神城伊織…!!」
“やられる”
何も思考が働かなくなって、痛みを覚悟した
その時。
目の前に見えたのは“純白の着物”だった。
ザシュッ!!
「「!!」」
槍を振り下ろした十二代目ですら、目を見開いた。
血が、頰に飛ぶ。
ドサ…!と力なく倒れたのは、俺ではなかった。
「千鶴!!!!」
庇うように斬られた彼に、即座に駆け寄った。切り裂かれた胸からは、じんわりと血が滲んでいる。
『…なんて顔してんだよ、伊織…。…折り神は依り代をやられねぇ限り死なないんだ。…弱っちぃ人間を庇うのは、とーぜんだろ…?』
「…!」