戦乱恋譚
その瞬間。彼が手に持ったのは“顕現録”。分厚い書物に、一同の視線が集まった。
十二代目が、動揺と怒りに震える。
「き、貴様、何を…?!!!」
ブワッ!!
感じ慣れた陽派の霊力が屋敷を包んだ。光を放つのは、力強く立つ彼女。その手には、“一羽の折り鶴”がいた。
しかし、それは以前の依り代ではない。小さい鶴が乗った“連鶴”だ。“迦陵頻(かりょうびん)”と呼ばれるその連鶴は、見たこともないほど繊細で美しい。
俺に寄りかかるようにして倒れる千鶴の口角が、わずかに緩む。
「“我に仕えし、式神よ。その御霊を祀りし依り代の、力を授かりて、再現せよ”」
ゴォォォッ!!!
彼女の声に、連鶴の依り代がドクン!と脈打った。そのセリフは、いつもの顕現ではない。
目を見開いた瞬間、千鶴の体が光に包まれる。
「“折り神、重ね!”」
パァァァッ!!!
(っ!!!)
まばゆい光が屋敷中に溢れた。誰もが目をつぶり、顔を覆う。
───バサッ!
陰る視界の中見えたのは、天空に舞う純白の“鶴の羽”だった。
《伊織side*終》